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新宿:2019年09月01日:スンガリー新宿東口本店(sungari)


    昨年、(丸の内の「ゴドノフ」を訪れて以来、ロシア料理を食べに行く機会は無かったのだが、ロシア料理はフランス料理と同等に好きなジャンルな事もあって、ロシア料理のサイトなどはずっと見ていたのだった。
    また、かのアントナンカレームが、グルジア(ジョージア)のバグラシオン家の公女のために色々と作っていたという事からも、ロシア料理とグルジアの料理との関係も気になっていたので、グルジア料理を食べれるとなると都内には多くはないので、そうなるとやはり伝統の「スンガリー」を訪れてみようと言う事にしたのでした。
    7年前のスンガリーの事はこちら

    (左)スンガリー新宿本店(歌舞伎町2丁目)(中央)テーブルの様子(右)幻想的なワインの天井



    本当に久しぶりに来た「スンガリー」、実に7年振りでもあったので、西武新宿線のガード沿いを歩くと言う事は覚えていたものの、最初はエレベーターで降りて、「staff only」と書かれた方の扉の方へと行ってしまった。
    中は、仄暗く、7年前よりもランプを落としているようで、古の六本木のヴォルガを彷彿させる感じで、外のチョット蒸し暑い陽気とは全然ちがい、快適なグロッタ(洞窟)でありました。

    (左)ロレット・イズ・バグラジャン(右)グリルス・ヴィーナ



    今回は、「グルジア料理」というテーマで来ている事もあり、前菜として「ロレット・イズ・バグラジャン」。
    フェタチーズとクルミを巻いた茄子の冷製・グルジア風という事で、語学に不如意なワタクシは、ロレットが「巻いてある」なのか「茄子」という意味かは分からなかったのですが、とりあえずは「バグラジャン」という名前が付いていたので、「バグラシオン(家)」の事だろうと思って、頼んで見ました。
    これが、また左側の写真の様に非常にお洒落で繊細な形で登場したので、流石”カレームに関する”と勝手に喜んでいたりもしたのでした。
    お味の方は、これまた上品かつチーズの味が巧く出ていて、嫌味にならないチーズの味と茄子との組み合わせが、「バグラシオン皇家」へと捧げるに足るとはこういうものなのかな?というちょっとした雰囲気を感じたのでした。

    二品目は、「グリルスヴィーナ」。
    これは、7年前にも食べた一品でしたが、ハンガリーの国宝と言われる【マンガリッツア豚】を使っている珍しい一品。
    この【マンガリッツア豚】を都内で食べれるところは少なく、かつてはオーストリア国家マイスターを取った方のハプスブルグ料理のお店でも食べれたようでしたが、今は「梅山豚」に変わっていて難しく、他にはハンガリー料理のお店でも食べれる所は少ないので、かなり貴重な食材。
    たまに、フランス料理店のメニューでも名前が出ている事があるものの、やはりそう数量を仕入れている訳ではなさそうで、なかなか食べに行くには難しく、”常時”食べるには「スンガリー」が安定していて良いという事になりますね。
    それはさておき、レンズ豆をたっぷりと使ったソースは、酢の利き方が素晴らしく、これがまた独特の風合いであたかも「醤油」の様な感じを思わせるソースで、しっかりとした肉質とソースを合わせると、レンズ豆の甘さとソースとで非常に食べ応えのある料理になっています。
    付け合わせのプラムを適宜ナイフで切って、肉に塗って食べるとまた美味しさにプラムの甘さが加わって味に深みが出ます。
    これは「ベラルーシ風(白ロシア風)」という事で、直接は「グルジア風」ではありませんでしたが、中央アジアのコサックの流れを受け継いだ広大なロシア帝国の料理の一つだと言う事は十二分に楽しめたものでした。

    (左)ペレペル・サッツビ―(中央)マグレ鴨肉のロースト、グルジア風クメリスネリ・スパイス風(左)ウクラインスキー・コトレータ



    続いて、「ペレぺル・サッツビ―」
    これも、7年前に食べていたのですが、同じく「グルジア風」との事で頼む事にしました。
    サッツビ―ソースと言うグルジア独自の香辛料などを使ったクルミのソースと言う事でしたが、なかなか独特の香草(クミン系)の味が効いているのと、ウズラにも香草を練ったものを塗って焼いてあるのか、ウズラ自体も”香ばしく”、そんなウズラとソースの組み合わせは非常に良く考えられているなと思いました。
    近年有名になった「マッサマンカレー」と似ていると言うと語弊がありますが(「マッサマン」はピーナッツを使う)、このソースを食べていると、ご飯と一緒に、というか、ご飯の上に乗せて「ウズラカレー グルジア風」としても十分に行けるのではないか?と思う位に「ご飯」を食べたくなりました。

    4品目は「マグレ鴨肉のロースト、グルジア風クメリスネリ・スパイス風」
    こちらもレンズ豆を使っていましたが、ソースは香辛料をベースにしたものとの事でした。
    「マグレ鴨」を使っている事に引っ張られるからか、ソースをそれこそグルジアワインを使ったフランス風のソースにしてないのは何故かな?と思ったりもしましたが、塩味の効いたコクのあるソースはそれだけで、マグレ鴨の鉄分のある味を引き立てているので、あえてワイン等を入れて煮詰めないのも一つの考え方かなとおもったりもします。
    大きめの赤いパプリカが一際存在感があって、【東欧系の料理】という印みたいなものですが、そこには”大ロシア帝国”の中でも格式が高い「バグラシオン家」の「グルジア」という部分の拘りを見たような気がします。

    そして、お料理の最後は「ウクラインスキー・コトレータ」
    以前、アタゴールの曾村シェフに「スコベレフ風カツレツ」を作って貰った際にも少し研究をしたのですが、「鶏」を使うのが【キエフスキー】、「挽き肉」を使うのが【ポジャルスキー】、「仔牛」を使うのが【スコベレフ】と、ロシアには食材に応じてカツレツ(コトレータ・コートレット)の名前が変化するのですが、折角なので、「ウクラインスキー」すなわち「豚」を使った「カツレツ」を食べて終りとすることにしました。
    このスンガリーのコトレータは「三元豚」ということで、もしかすると【豚】については大いに拘りがあるのがロシアなのかという一つのサジェッションを得たのですが、中にはマッシュルームとバターで作った「餡」を入れて、トロッとした仕上がりになっています。
    ロシア料理で【茸】というと、前菜であったり、壺焼きであったりと、意外にポピュラーな食材でもあって、やはりロシア料理が”地の恵み”豊かな料理である事を認識させられるのですが、このコトレータも優しいマッシュルームの味と、これまた肉質はしっかりとしているが、和らかい肉の味とで、上手くまとまっている感じの一品でした。

    (左)黒パン(中央)トゥロジネイ・トルフャノイ・トルト(左)グロッタ(洞窟)の店内



    そして、今日の締めくくりとしてのデザートとして「トゥロジネイ・トルフャノイ・トルト」
    本当は、バトルシキ・ポ・スンガリーというここの店名を冠したモノを食べたかったのだが、生憎にも「トゥポログチーズ」が切れてしまい、”売切れ”……
    という事で、エストニア風チョコクランブルとチーズのケーキである「トゥロジネイ・トルフャノイ・トルト」を頼むことに。
    とはいえ、ここの料理の質から言って、何を頼んでも特に失望はしないので、楽しく待っていると、結構大仰なお皿に(それも普通の料理用の皿よりも大きかったような)乗せられて最後の”デザート”は登場。
    しっかりと昔懐かしい厚みのある台座に、これもまたしっかりとした密度のチョコが押し込まれたケーキで、それこそ【金(ゴールド)】の重さが見た目と違って、その質量が云々という話の様にガッチリとしたタルト(ケーキ)で、これを日常食べているロシア系の方々は、日本に来て、”名前はあるが薄っぺらいケーキ”を食べたら、【日本は食文化の後進国】とか「何かの間違いでは?」と思われるのではないかと思うほどの「頑丈さ」「丈夫さ」という、我々日本人がイメージでしか持ち得ていない「ロシア帝国」「ソ連邦」とは”かくや”というものでした。
    その位、このロシア風のケーキ(実際にはエストニア風だが)の予期せぬインパクトは大きなものだったのでした。
    (このケーキには、ロシアンティーよりも「ウバティー」とか「ハイチ」とかのコーヒーが飲みたくなりました。)

    という事で、7年振りのスンガリー訪問は、未だ見ぬ「グルジア」「バグラシオン」の雰囲気をちょっと感じ取る事が出来た幸せな週末となったのでした。