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東京丸の内:2018年04月01日:ゴドノフ(Godonov)


    世界の料理が集まる東京。それこそ無い料理が無いとも思えるこの東京だが、実はしっかりとしたロシア料理と言うのは少ない。
    ロシア料理と言えば、やれピロシキだ、ボルシチだと言った物ばかりが幅を利かすようだが、世界最大の面積と財力を誇ったロマノフ家の料理であって、その内実はフランス料理の繊細さと元々のロシア人気質の激しさとが重なり合った世界有数の料理の一つなのである。
    それゆえ、素晴らしいロシア料理にあずかろうとするならば、それは非常に大変な事なのである。
    バブル期を過ぎ、飯倉のボルガ(VOLGA)が閉店した後で、気の利いたロシア料理と言うのは新宿のスンガリー位になってしまい、なかなかに満足感を得る様なお店が少なくなってしまった。

    そんな中で、丸の内にロシア本国でも有名な老舗のゴドノフの支店が出来るとあって、これは行かずにはおれんと言う事で、早速開業間もない4月1日に赴いてみました。

    (左)丸ビルのゴドノフ入り口(中央)コースメニューの一つ(右)臙脂色はビーツの色でもあるが、東ローマでは貴人の着る色でもある



    さて、行ってみるとコースが中心の様だったので、スタンダードな雰囲気の”モスクワコース”をオーダーする。

    構成としては、

    前菜:サラダオリビエ

    前菜:蟹とアボガドのハラビッツ

    スープ:ボルシチ

    パン:牛肉のピロシキ

    メイン:ビーフストロガノフ

    デザート:ブラックロシアンアフォガード

    と言う内容である。

    (左)サラダオリビエ(右)牛肉ピロシキ(右下)蟹とアボガドのハラジェッツ(左下)ぺリメニ


    (左)ピロシキ内部(右)ボルシチ(右)ブラックルシアンアフォガード(左下)ストロガノフ



    さて………期待と共に勇んで向かった最初の気持ちはどこへやら……出てきた料理の数々を見て(食べて)失望することしきり……
    オリビエサラダも美味しかった。ハラジェッツは凄く丁寧に出汁がとれていた。ぺリメニも茹ですぎてブクブクになっておらず、これも良かった。ボルシチもビーツの味が出ていた。ピロシキも油まみれと言う事も無く上品であった。ストロガノフも丁寧にクリームが仕上がっていて肉とのバランスも良かった。アフォガードも口をさっぱりさせるのに良かった。
    だが、しかし……大いに失望したのである。

    それは分量である、
    写真だけみれば、いわゆるインスタ映えの様な綺麗な出来である。だから非常に食欲をそそるし、食べたいと思う。しかし、出てきた量は写真からは想像できない少量づつというわけである。
    無論、少ない分量で何種類もと言うのも分からなくは無いし、初めてロシア料理を食べる人はむしろ(ロシアの訳の分からなさのイメージとは裏腹に)こじんまりと整ったイメージを持つかもしれない。
    だが?そこは考えて見てもほしい。
    世界で最大の陸軍国であり、ロシア革命までは世界一の大金持ちだったロマノフ家。第二次世界大戦後はアメリカと世界を二分した冷戦の一方の旗頭である。
    そんな巨大な帝国に住まう人達の料理が、そんなこじんまりしていて足り様はずが無いのである。
    ”母なる大地”、”豊かな大地”、午後三時には貴族も平民もどっさりのピロシキを焼いて、グラグラと煮えたぎるサモワール(湯沸かし器)でロシアンティーを飲む。
    その様な食生活を感じさせる要素は全くなかった。
    いくら、本店のゴドノフのレシピであるとか、そこで修業をしたと言う事であっても、分量もそんな程度なんですか?と思わず言ってしまいそうになる一瞬でした。

    ゴドノフで修業をしたとある通り、一つ一つの出来は良いのに、分量で失望に至るのは本当に残念な事でありました。
    そもそもレストランとは restaurant:滋養を回復させる、栄耀のある と言うのが本義である。そういう意味では、ある程度お腹がいっぱいになる分量は欲しいのである。
    無論、ここの運営元は酒屋さんとの事なので、お腹いっぱいと言うよりは「酔いが一杯」の路線なのだとは思うのだけれども、折角ロシア料理のニューフェイス到来か?と思ったら見事に足を払われてしまった……そんな2018年の事でした。
    それこそ、3480円と言う値段をつけるなら、ボルシチ+ピロシキで構わないので、ボルシチを2.5倍の分量、ピロシキを6個位のセットにしてくれた方が満足した気がします。
    あるいは、8000円でも10000円でも良いから、この量のせめて2倍は欲しいぞ、と素直に思ったものでした。
    そして、やっぱり丸の内は高給取りが多いんだなぁと。これで怒らないんだから大したものだ、と妙な感慨を抱いて店を後にしたのでした。