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このサイトのコンセプト


    昭和から平成へと元号が変わる頃、まだバブルと呼ばれた活気溢れる雰囲気が日本を覆っていました。 国情と食事とに相関関係があるのは世の倣いでもあるでしょう。バブル期当時のフランス料理は非常に魅力的で心惹かれるものが多く「フランス料理」と言えば、否応無しに心がワクワクしたのを今も思い出します。 爾来、30年、日本の立ち位置や雰囲気の変化もあり、フランス料理もそれにつれて大きく変化をしていった様に思います。 バブル期のはじけそうなエネルギーに満ち溢れた料理の品々から、「健康にやさしい」「素材に寄り添う」「フランス料理の進化」などと言う内向的なベクトルへと向かい、 単純に「美味しいフランス料理」「ハレの日のご馳走」と言う感じから、ある種、技巧的で一枚薄い布で覆った様な見てくれは綺麗だけれども薄っぺらい品々に変わって行く感じを 覚えました。
    元来、濃厚なソースが好きな自分には、バブル期にはひよっと入った店でも美味しいソースを出すお店は幾らでもありましたが、 今となっては「ソースを軽く、ソースを軽く」とか「素材に厚塗りをやめて」などとの何かのお題目の様なものの影響か、 余程の事がなければ、満足の行くものにぶち当たる事は少なくなりました。
    バブル期の様に活気があって、心理的にも高揚感のあった青年期の様な時代は終わって、日本も成長して大人になったのだと言われれば、 一つの理屈としてはそれはそうだと言う事にもなろうが、料理やソースなど、こればっかりは”好みの問題”なので如何ともし難い。 結局のところ、「軽いソース」が大手を振って歩くような時代において、自分が満足する美味しいモノを食べようと思えば、 勉強して、信頼できる人にお願いして造って貰う他はないと言う結論になった。
    それをして我儘と言われればそうであろうし、ただの懐古趣味と言われればそれも大いにその通り。 或いは、弾ける様な青年期への郷愁を捨てていない人間の戯言と言われればそれも結構である。 しかし、食事は個人の愉しみであるし、中々代替の効かないモノであるから、世の中に広く流布しているモノでは満足出来ないのであれば、 そこは自分で工夫して行くしかないのである。
    「食べたいものを食べる」
    これに勝る幸せは無い。自分の求めているフランス料理が懐古趣味的な要素を内包しているものであっても自分はそれを追求していきたいのである。
    平成から新しい元号に変わる丁度この境目の時、それこそ新しい時代を迎えても自分の食べたいフランス料理を追求していきたいと言う想いを込めて このHPを作ろうと決意した次第。
    そして、この我が儘な(かつ面倒くさい)注文をするワタクシの為に、 持てる技量と経験を熱いハートと共に一品一品造り出してくれた料理人の方々に対する感謝の念である。 通常のメニューやお任せのメニューとは違ってのオートクチュール形態で料理を造るのは、日々の仕事のお邪魔であろうし、流れも乱す事であろう。 それにも関わらず、真摯に応えて生み出された感動的な品々を収録する事で、後世の人が、何かの縁(よすが)で、こんな仕事をする先達もいるのだと言う事で関心を持ち 刺激を受けて貰いたいと言う想いもあります。
    加えて、私はフランス料理に関心はあるけれども、業界人でも何でもない、只の食い意地の張った人間でしかないけれども、 素人の自分でもフランス料理で、この様な楽しみ方を出来るのだと言う事を感じて頂いて、一人でも多くの人がフランス料理を楽しむ(or関心を持つ)きっかけになってくれれば 良いと言う気持ちもあり、
    年を取り、失う事ばかりを嘆く年齢になれども、日本にはこの様な素晴らしいフランス料理を造る作り手がいる。そして自分はその様な方々の珠玉の一品一品を身体に取り入れて ここまで生きてくる事が出来たと言う僥倖を味わえたと言う奇跡を、衰えていく気力と記憶力の中で何とか残せていけたらと考えております。

かって大隈侯は自邸に客人を呼んで美食政治を繰り広げたとされるが、俗人のわたくしめにはそんな事は出来ないので、せめて個人の美食を貫こうとおもう