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日本橋高島屋8F:2019年03月18日:資生堂パーラー


    久しぶりに、洋食でも食べてみようかと思い、日本橋の資生堂パーラーへと足を運んでみる事にした。
    銀座と違って、日本橋の方は高島屋の建て替えなどにぶつかって、なんだかんだと結局利用しないままだった事もあって、本店とは違って支店がどの程度のものを出すのかにも興味があったのであった。

    (左)資生堂パーラー日本橋店 (中央) オムライス



    高島屋の8Fに行くと、以前のガラス張りの店構えとは違った一軒家風の良くあるビストロ然とした店構えに変わっていた。
    頼むものは、実は決まっていて、この時はどうにも「オムライス」を食べたくて仕方が無かった。
    何がそう欲したか、卵にくるまれたご飯を食べたいと思ったのだった。
    個人的に、「卵」は苦手な部類のもので、アレルギーとかそう言う事ではなく、黄味と白身がしっかりと分かれていない様なものは特に仕事などでそう言うものを食べなくてはいけない会食などの場合を除いては、自分から望んで食べる事は決してない。
    良く、「半熟のフワフワトロトロ」とか言う表現の状態は、逆に自分からは「やめてください」と言う類のものですらあった。
    (要は、白身の味と、白身のグシャグシャ感がどうしても自分には合わないと言う事である)
    そのため、「卵料理」は存在自体を忌避する様な感じで、そもそも「オムライス」を食べようなどと言うのも珍しい事ではあったのだが、食べたいものは食べたいのでどうしようもない。
    「洋食屋」と言うと、「オムライス」は看板メニューの一つでもあるが、色々とネットの映像などを見ると、何処の店も「フワトロ系」だったり、「白身と黄味の境界が不鮮明」だったりで、食指が湧かないどころのものではなかった。
    そんな中で、「資生堂パーラーのオムライス」は綺麗に均一な黄色の外観で中も白身を感じさせず、これだけで全てをクリアしていると言っても過言では無い代物であった。
    そう言う訳で、半ば必然的に行先は資生堂と決まっていたのだった。

    (左)オムライスの断面(右)資生堂のマーク(「椿(TUBAKI)」)




    席に案内されておもむろに「オムライス」を注文し、暫し待つ。
    この時は、丁度、日本橋高島屋CS館のグランドオープンと相まって、資生堂パーラーも先客で比較的混んでいた様に感じた。
    デパート内の飲食店は何気に静かさが売りである様にも思う。ほどほどに広い清潔感のある空間に独りポツンと座って、静かな空間を独り占めするのは、また何とも言えない贅沢な気持ちにもなる。
    今回は、そう言う場面では無かったが、そこは資生堂パーラー、騒いでおしゃべりをする様な人達も無く静かな上品な空間であった。

    さて、そうこうするうちに「オムライス」が運ばれて来た。
    「お皿が熱いのでお気を付けください」とだけ言い残して運んで来てくれた人は静かに下がって行った。
    【綺麗な黄色い外観】である。
    【白身が混じっていないまさにすべすべの黄色】
    【黄色いオムレツと対照をなす白い椿マークのお皿】
    【黄色の上には濃い緑のパセリが載って】
    【黄色にかけられた朱色のソースが黄色を輝かせる】
    そんな趣きを湛えたお皿の構成である。

    「茶巾寿司」とあたかも似ているかのようなこの「オムライス」は、やっぱり【一つの美意識】に貫かれているのだろう。
    なんとなく、自分が、ここの「オムライス」に安心感を覚える理由が分かったような気がした。

    綺麗な黄色に見とれている事、数分あまり、せっかくのオムライスが冷めてしまうので、頂く事にする。
    ナイフを入れると、外側の黄色い表面がずれる事なくナイフが入って行く。そして、ナイフに感じるずっしりとしたライスの質感。
    黄色い外側の中には、赤い色に染まったぎっちりとしたチキンライスが埋められていた。
    米にしっかりと浸み込んだ「トマト」の味。
    濃い目のトマトの味に、酸味と塩味が感じられて、米を食べつつトマトも食べている様な素晴らしい仕上がりである。
    外側のオムレツが美味しいのはもちろんなのだが、この料理の眼目は間違いなく「トマトと米」であろう。
    米をどれだけ美味しく食べさせるか……米にどの様なものを含ませるか……
    そのギリギリのせめぎ合いや、その収斂の過程が、ここにある「トマトソース」と「米」の在り方なのだろう。
    一枚の白いお皿の上の「赤」「白」「黄色」のシンプルな世界ではあるが、非常に興味をそそられた「米料理(卵料理)」となった。

    (左)ポップなショウウィンドウ(右)メニュー




    「オムライス」を十分に堪能して、帰りがけ、このオムライスの「トマトソース」について聞くと、銀座の本店で作って運んでくると言う。
    そして、本店で修業して”合格”した人が、このオムライスを作るのだと。
    なるほど、それでこその「品質」だな、と得心したのだが、同時に「本店」と同じ味の水準を維持すると言う事にも繋がるのだろう。
    かつて銀座本店で食べた「オムライス」。
    ここ日本橋で食べた「オムライス」。
    【不確定の要素】を出来るだけ取り除いて、【条件を揃える】ことでもたらされる【高品質の維持】は、銀座と日本橋の違いを殆ど見いだせない程の素晴らしい出来映えであったのである。
    そんな資生堂パーラーの料理に【AI時代の一つの料理】を感じたりもした一時でもあった。