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2018年07月02日:某氏と会食 【金魚のデザート】@A ta guele (アタゴール)

    初夏から夏の入りを迎えた7月に、さるお世話になった方をおもてなしするために、木場のアタゴールの個室を予約した上で主賓をお迎えしました。
    今までお世話になった方なので、主賓の方に感謝の意を込めて、主賓の方が趣味としている「金魚」をモチーフにしたデザートをお願いする事になりました。

アミューズ 前菜:スープ 前菜:ラビオリ



    最初のアミューズとして、「アタゴール自家製のリエットと山菜」を。
    猪の脂で作ったリエットが、鎌倉野菜とこれまた自家製のピクルスの酸味も手伝って、幾らでもパンを食べてしまいそうになります。

    前菜一皿目。「冷製コンソメと黒トリュフのパリソワール仕立て」
    この冷製コンソメのパリソワール仕立ては、曾村氏のスペシャリテの一つでもありますが、非常に上品なコンソメと黒トリュフの香りが濃厚にするクリームスープなのですが、冷えたコンソメがまた素晴らしく、何時も頂く度にクープでは無く、ボウルでゴクゴクと飲んでみたいと言って、何時も支配人の市川さんに笑われる場面でもあります。

    前菜二皿目。「アンダルシア産ウサギもも肉のラビオリ仕立て フォレスティエール風」
    二皿目にパスタの構成と言うのもイレギュラーではありますが、今回の主賓の方がお好きなモノの一つにパスタがあるので、これをメニューに組み込む事にして、ただ、折角フランス料理店での食事なので、通常のパスタ仕様では面白くないので、”ラビオリ仕立て”でお願いを致しました。
    ”フォレスティエール風(foresiere)”と言うのは、森林風あるいは木こり風と言った感じで、割とフランス料理ではポピュラーな方法の一つですが、茸や山の物を使ってソースを使う場合によく使われる名称の一つでもあります。
    ウサギの淡白な肉の味を、バターベースの茸のソースが絡んで、普通のラビオリを何倍も贅沢にしてくれています。

お口直しのグラニテ メイン:鹿



    「アカシアと蜂蜜、ミントのシャーベット」がお口直しのグラニテとして運ばれてきました。
    「リエット」「コンソメ」「ラビオリ」と比較的塩味の立ったものが続いたので非常に口がさっぱりします。

    そして、本日のメインである、「下諏訪産夏鹿のウェリントン風」が登場。
    夏なのでジビエシーズンとはいきませんが、害獣駆除などで手に入るモノがたまにあります。この鹿もそのなかの一つ。手に入るかどうかは全く予想の出来ない事なので、当初のオーダーでは単純に「鹿」でとだけお話を詰めていたのですが、今回はたまたま手に入ったと言う事で嬉しいサプライズ。
    ジビエとしての「鹿」は、通説的には秋から冬場にかけての方が、冬場にかけて食料を蓄えている事もあり一般に美味とされていますが、個人的には夏場の筋肉質な方が味的には好きだったりもします。
    そんな嬉しい自然の恵みでもあったのですが、この「羊のパイ包み」の”ウェリントン風”
    これは、かのナポレオンに勝利したイギリスの将軍であるウェリントン公爵の名前を付けた料理で、鹿肉でフォアグラを巻いたものをパイ仕立てにした豪華なものですが、アタゴール曾村氏の出身でもあるホテルオークラが誇るスペシャリテの一つでもあります。
    パイの色、切り口から流れるフォアグラと、やや厚みのある鹿肉が食べる者を魅了して止みません。

    「牛肉のパイ包み」ウェリントン風(Bouef Wellington)についてはこちらも


鹿のパイ包み ウェリントン風(Chevreuil d' ete de SIMOSUWA Wellington)




    この料理を単純に「鹿のパイ包み」と呼ぶか、「鹿のウェリントン風」と呼ぶか、それは同じではありますが、意味が違うとおもっています。
    もちろん、鹿肉をパイで包んだのですから、「鹿のパイ包み」で何ら間違えではありません。しかし、この鹿の料理ができるまでの(この世に登場するまでの)歳月や経緯を考えると、やはり「ウェリントン公爵所縁の」と言うフレーズが入った方が良いと思うのです。
    料理は先人の苦労の積み重ねではありますが、それは作る方だけでは無く、食べる側の労苦もあって存続してきたものでもあるからです。
    ナポレオンを破った”ウェリントン公爵”に捧げた……つまりフランスそのものを象徴するかの様なナポレオンを破った人物に捧げられた”フランス料理”と言う、何ともフランス人からは面白くない料理が、ただ「鹿のパイ包み」と言う形態描写で終わっては寂しいと思うのです。
    今までの積み重ねである人類の資産でもある「フランス料理」が更に後の世代にも残って行きますように。

デセール ”金魚”



    メインが終わり、次のものが運ばれている間、アタゴールの個室に居ると本当に列車に乗って食事をしている様な気になります。
    列車の中(個室は、何時ものアタゴールでの食事をする方では無く、食後のコーヒーを飲むサロンカーの方にある)で食事をしているのだから、当然と言われれば当然ですが、車内の木目を基調にした寝台車としての居心地の良い空間設計がなおさらそれを実感させるのでしょう。
    飛行機が誕生する前のベルエポック期に、各国の帝室・王室が専用列車を持っていた理由も何となく頷けるような気がします。


金魚!!
黄色い金魚が水を泳いでいる!!

    アタゴールのオーナーシェフである曾村譲司氏は、オリエント急行のシェフとしてのタイトルが有名な方ですが、もちろんそのオリエント急行の東南アジア版であるE&Oエクスプレスでの乗車経験に加えて、シンガポールのラッフルズホテルでのご経験もおありになるとの事。
    アタゴールでのバースデープレートには、氏の作った手彫りの果物や野菜での彫刻や、石鹸のカービングなどが盛られ、誕生日に華を添えてくれます。
    今回、金魚のデザートを考えた際に、曾村氏のオリエンタルに精通した経歴や、曾村氏にしか出来ないカービングの要素を併せ持つデザートをお願いしたのはそういう訳でもありました。
    少々濁り気のある水を動く揺らめく金魚。日本の金魚とは違って大きく、まるでアロワナの様な金魚は、中国の富裕層では重宝されるアイテムの一つであります。
    実は、この時の主賓の方のご親族が「アロワナ」を飼おうとした事があったのですが、諸般の事情があって断念した事があったのです。
    その事も(丁度)重なって、主賓の方の喜びようと言ったらありませんでした。
    まさに、曾村氏のスペシャリテと言っても過言ではない、”金魚”の誕生した瞬間でもありました。(「料理」では無いので)

デセールとプティフール




    金色の金魚には、もう一つおまけがついていました。これまた金色のパッションフルーツのアイスクリームです。
    この日は直接商談だった訳ではありませんが、しかし何時もお世話になっている方をお招きしての席でもあったので、この金色の色調は先ほどのアロワナとも相まって、大いに話が盛り上がりました。
    食事は、美味しいモノを食べる事と思っていて、余り、接待などには使いたくも無かったのですが、今回はどうしても、お招きした方にこの”金魚”をお見せしたかったので、曾村氏他に我が儘を言い叶えて頂きました。
    美味しい料理に加えて、サプライズの「鹿」、そして「金魚」と、色々と気を使って頂いたある日の晩餐会だったのです。

僕の姿もデザートになるかしらん?
なったら恰好良いのになぁ
(仮定法”なぁ”を使っているから無理かな?)