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2016年12月19日:2016年の締めくくりは【カフェドパリ風のイベリコ豚】@A ta guele (アタゴール)

アミューズ:鎌倉野菜とウリ坊のリエット温製仕立て 前菜:栗のスープカプチーノ仕立て 



    アミューズは「鎌倉野菜とウリ坊のリエット温製仕立て」です。
    ジビエが豊富なアタゴールでは、アミューズにもふんだんにジビエ素材を使ってくれます。
    今回はウリ坊のリエットをフォンデュの様な感じで温めて、鎌倉野菜を付けて食べるというなかなか面白い趣向となっています。
    ウリ坊の脂がゆっくりじんわり温められていくそれぞれの段階に、シャキシャキと味の濃い鎌倉野菜を自分の好きな状態の時に付けて食べて行くので、最初のゆったりとした段階から、終盤の煮詰まった段階まで色々なウリ坊の顔を楽しめる逸品でした。

    次はスープで「栗のスープカプチーノ仕立て」。
    ”小布施栗”がスープになると言う、これもなんとも贅沢な一品ですが、下の濃厚な”栗”のスープに対して、上の”泡(カプチーノ)”が合わさって見事にバランスを取っています。
    「軽くて濃厚」とか「存在感があるけど軽い」などという一見矛盾した言葉で表現される”一つの感想(欲望)”ではありますが、曾村氏はスペシャリテでもある「トリュフのパリソワール」などでも見られる様に、この”絶妙なバランス観”に非凡なところを感じる部分です。
    この「栗のスープ」も、”以下同文”
    本当に、素晴らしい巧みなスープでありました。

前菜:一口フォアグラのクロードジョリー 前菜:牡蠣のカークパトリック



    スープの後の前菜には「一口フォアグラのクロードジョリー」。

    これは、なかなかに古典的かつお洒落な一品を持って来ました。
    この料理は1975年にエリゼ宮で開かれた歴史的な午餐会である、ジスカールデスタンがポール=ボキューズにレジョンドヌール勲章を授与した際に出されたメニューの一つで、ミシェル=ゲラールなる人物の手によって作り出された一品なのです。
    フォアグラの周りにゼリーを巻いたこの料理は、1975年2月25日と言うヌーベルキュイジーヌにとって輝かしい一日に華を添えるシンボリックな一品でもありました。

    1960年台~1970年台から大きなうねりをフランス料理にもたらしたヌーベルキュイジーヌは、古典料理と現代料理の橋渡し的な位置付けとして語られますが、なかなかどうして、その表現様式や味と言う点において、間違いなく”豪華な料理”の一群であると思うのです。
    それは「帝室」や「王室」の権威を微表する装置としての料理から、「個人主義」の追求へとパラダイムシフトしていく際の過渡期を跨ぐ料理でもあるのですが、それゆえに移り行く時代の中で、強烈に「存在」への自我を放った料理だとも思えるからなのです。

    ただ綺麗とか、美味しいということにとどまらない「何か」を感じさせるこの時代の料理は、人を魅了して止まない”妖しい光り”を内に秘めた料理の数々だとも言うことが出来るでしょう。

    この「クロードジョリー」は、当にその代表的な料理だと思います。
    上質のフォアグラの甘さに差し掛かる茶色いコンソメのゼリー……そして仄かに薫るコーヒーの苦さと、歯に当たるナッツの粒々の感じが何とも言えない深みを出しています。
    追い付こうとしても直ぐ去られてしまうような一瞬の美味しさを感じさせてくれるクロードジョリーは、”妖しい光り”だけを余韻に残して舌を過ぎ去っていったのでした。

    クロードジョリーの余韻に浸っているうちに運ばれて来た次の前菜は「牡蠣のカークパトリック」
    今回、ご一緒した方が特に御所望になった料理である。
    冒頭に触れたように、先日のアミューズで頂いた際に非常にお気に召して、「山盛りな牡蠣を食べたい」と宣われたことが今回の食事の原点でもあった。
    「流石に一ダース盛るのは難しかったので」とは市川氏。
    確かに、山盛りの牡蠣というのも絵的に興味をそそるものだが、今、眼の前に現れた牡蠣は牡蠣殻と透明な氷細工の様な置きものとが組み合わさって、ギリシアか何かの地中海を彷彿させるような雰囲気さえ醸し出している。
    クロードジョリーに続いての流れで”ヌーベルキュイジーヌ”を意識したかは定かではないが、牡蠣と言う料理の存在自体を骨太に主張しながらも周り(盛り付け方やガルニ)がそれを高めて行くという手法は、今のペラペラな見栄えだけの現代フレンチとは一線を画している。
    オシェトラキャビアとフレンチキャビアの対比に、黄色いソースの質感が組み合わさって、焦げ茶色の四方皿の上の世界にある牡蠣があたかも生きているかのように見えるのは決して錯覚ではないだろう。

    今回、この牡蠣のカークパトリックをご所望になられた方は、それでも市川氏に「もっと食べたかった~~」と言っておられたが、少なくとも目の前に現れたロマン派絵画の様な牡蠣を見て、スイッチが入ったと見え、無我夢中で牡蠣をムシャムシャとやってあっと言う間に平らげてしまい、「やっぱり美味しかったわ~満足満足」とおっしゃっていたので、とりあえず今日の食事会をした意義は達成されたなとホッと胸を撫で下ろしたのでした。


お口直しのグラニテ:本柚子 メイン:イベリコ豚のペルシアード カフェドパリ風




    お口直しのグラニテは「本柚子のグラニテ」
    鎌倉野菜は本当に味が濃いのですが、同じく鎌倉から仕入れた柚子も非常にはっきりとした味で、12月を感じさせてくれる味覚の一つでした。

    そして本日のメインの「イベリコ豚のペルシアード カフェドパリ風」
    これはワタクシの方でお願いをしたものなのですが、以前、アタゴールでイベリコ豚を食べた際にとても「質」「量」ともに満足をしたので、その旨味溢れる美味しい【豚】で「トンカツ」を食べてみたいと思っていたのでした。
    と言うのも、イベリコ豚を食べる機会というのが余り無く、あるとしてもデパートの催事か、ちょっと気の利いた「トンカツ屋」で登場するのが関の山で、もちろんデパートの催事で食べれる(買える)ものは大したものがないし、かといって、「トンカツ屋」で食べるイベリコ豚は、やっぱり”トンカツ”の域を出るものはなく(しかも量が少ないと来て)、どうも消化不良と言うか納得がいかない事が多かったのです。
    そんな事もあって、今回のメインを市川氏に相談する際に「イベリコ豚でトンカツを食べたい」とお話していたのでした。

    市川氏曰く「とりあえず、トンカツになって出てくるかは分からないですが、曾村に伝えておきます」

    と言う事だったので、今日の今日まで「イベリコ豚」がどの様な形に料理されて出てくるかは全く分からず………

    エシーヌかな……「それともシュッニッテル風」かな……と妄想は尽きず……当日を迎えたのでした。

    先ほどの「カークパトリック」の食べたお皿を引き下げて行く際に、市川氏が「今日のイベリコ豚はどのくらい召し上がりますか?」と聞かれると(ご同席の方が『かなり食べたい』と言う顔をされたので)「とりあえず300は食べたいかな?」という旨を伝えると、(ご同席の方は『少ないかも』との雰囲気だったので)「一応300ベースで、分量が多くなる分には構わないから」と言う事を付け加えて”イベリコ豚の分量”をお願いしたのでした。

    というわけで、市川氏が恭しくお皿を持って現れました。

    イベリコ豚のペルシアード カフェドパリ風です」
    「曾村が只のトンカツではツマラナイだろうからと、オリエント急行に乗っていた際に作っていたものからと」

    なるほど、それはまた素晴らしいサプライズと言う事で、ワタクシもご同席の方も大いに盛り上がります。
    ”分厚く”カットされたイベリコ豚にたっぷりと鎧の様にまぶされた「カフェドパリバター」
    「カフェドパリバター」とは、”パリ”という名前はつきますが、実はフランスで生まれたものでは無く、スイスのジュネーブにある「カフェドパリ」というお店のオーナーによって生み出された料理なのです。
    (ここの元祖である、スイスのお店のレシピは秘密とされているため、この”元祖カフェドパリバター”を模して、あるいはそれを凌ぐような形で”新しいカフェドパリバター”がうまれ、その技法を使って作るものもポピュラーになってきている)

    たっぷりのハーブやバターを練り込んで作る”カフェドパリバター”は、元々は”牛肉(entrecote)”を使って作るとされているが、今回は”イベリコ豚”
    牛と豚での料理法は、その肉質や味と言う点からも違う場合が多いが、(あくまで個人的ではあるが)こと”イベリコ豚”に関しては、豚と言うよりも牛に近い肉質だったり味に近い部分を感じるので、今回のカフェドパリバターをまぶしてのスタイルも全然気にならないどころか、かえって良く馴染んで美味しかったので、こういう美味しさを正面から味わうと、”イベリコ豚”は、”牛”の技法を使う事でかえって活躍の場が広がるのではないかしらん?と感心したものだった。

    ”ご同席の方”も「イベリコ豚ってこんなに美味しくなるんだねぇ」と喜色満面で頬を紅潮させて舌鼓を打っておられ「こんなに美味しいと他の豚を食べれないね」とも堯絶に語っておられ、本当にそうだなぁとワタクシも相槌を打ちながらその美味しさを少しも味わい漏らすまいとして夢中に口と頭を動かしていたのだった。

    ここで、再び市川氏が登場して、「ビーツの酢漬けです。トンカツと言えば、やはりキャベツなので」といって、付け合わせの一品を置いて行ってくれた。
    それこそ”キャベツ食べ放題よろしくビーツ食べ放題が良いよね”とまたしてもご同席の方のボルテージも上がり、もはやとどまるところを知らぬ”イベリコ豚の夕餉”となったのでありました。

    ここにアタゴールのFacebook(2017年1月8日)を引用させて頂いて締めくくりとしたいと思います。

    この、カフェ ド パリ バターは古くにスイスで考案されたお料理です。
    元々スイスは備蓄の国で有名。
    (日本に例えれば、新米を蓄え常に古々米を食べるようなこと)
    熟成した食材をいかに美味しく調理し、食べるか。
    もっとも香草と香辛料を駆使して編み出されたお料理だと思います。
    今回メニュー表記に、オリエント急行 を書いてはございませんが
    曽村がエクスプレス業務現役の頃
    アルプス越えの際、限られた備えと積荷でよく作っていた
    思い入れのある逸品なのです。



デセール:オリエント急行聖夜の誓い 




    デセールは「オリエント急行聖夜の誓い」

    これは、この年(2016年)のクリスマスメニューの締めくくりの「イチゴを使った」デセールを一足早く試食させて頂きました。
    個人的に、クリスマスの時期に仕事の都合がつかず、今までフランス料理店でクリスマスメニューを味わった事は殆どないという、ある意味、非常に残念なワタクシなのですが、今回は、丁度アタゴールのクリスマスメニューが決まった直後と言うで、特別にデセールとして一足早いクリスマス気分を味合わせてもらいました。
    甘い甘いとちおとめと、これまた甘い甘い白い砂糖菓子、そしてチョコレートとこれまた苺のアイスクリーム……

    ”ご同席の方”も「これはもの凄~く ”甘い” 甘い」と嬉しそうに何度もリフレインしていたので、そのネーミングセンスは、クリスマスと言う特殊なヒトトキには魔法の言葉の様に、このアタゴールを利用する皆さまの心を捉えて離さないのでしょう。

    何はともわれ、アタゴールでの2016年の最後の食事は、ご同席の方の【甘いアマイ】リフレインでもって賑やかに終了したのでした。

やはりクリスマスは、フランス料理店のメインイベントの一つ
しかし、その準備は我々には窺い知れない大変なもので
まさに”戦場と化す”のだそうです。