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2016年11月28日:大人のお夜食【フォアグラのサンドイッチとトリュフのオムレツ】@A ta guele (アタゴール)

    秋も深まる11月。フランス辺りでは観劇をして夜食に牡蠣をつまんで、どんぷりイッパイのオニオングラタンスープなどと言う食べ方もあって、ついついフランス料理と言うと豪華で格式ばったモノを想像しがちでもありますが、豪華で美味しい【大人のお夜食】というものがあったら面白いな?と思い、一風変わった構成でのメニューをお願いしたのでした。

アミューズ:自家製ジビエの燻製とリエット 前菜:牡蠣のカークパトリック 



    アミューズは「猪とフォアグラのリエットと鹿の燻製、鎌倉野菜を合わせたもの」です。
    丁度ジビエシーズンが解禁になる頃のジビエの材料を使ってのアミューズ。(日本でのジビエ解禁は11月15日。北海道はこれより1カ月早い)
    まだ、熟成が進んでおらず、若い肉質特有な酸性を味わいつつ、猪の脂とパンが程よく合います。

    次の前菜として「牡蠣のカークパトリック」。
    アタゴールの曾村氏のスペシャリテの一つでもありますが、曾村氏の古巣のホテルオークラの「シェフのこだわりレシピ」と言うところにも紹介されているので、オークラ系の方々の必修の料理なのかもしれませんが、焼いた牡蠣に、牡蠣を焼いた際に出てくる美味しい汁と濃い目のベアルネーズソースが重なって、本当に美味しく、”前菜”だけれども”メイン”にしてくれと言ってしまう程の素晴らしさでもあります。
    (実際に、この時にご同席していた方は余りに曾村氏のカークパトリックが気に入って、このカークパトリックを山盛りに食べたいと言う事をお願いされてました。)
    【カークパトリック】と言う名前の由来には、”フランス人のシェフの名前から”、”これを頼んだ王様の名前から”、”聖人の名前から”などと幾つかあるようですが……
    個人的には、”牡蠣好きなフランス人が喜ぶような、聖人が食べるほど素晴らしい牡蠣の料理を作り、それを作った人の名前が、たまたま聖人と一緒だった……”と言う事ではないかと想像をしてみたりもします。

    「前菜の役割」と言う事では、次の料理への食欲を掻きたてると言う別の役目もありますが、”もっと食べたい!!”と思わせるこの一品は、十分過ぎるほどにその役割を果たした料理でもありました。

前菜:大人のサンドウィッチ フォアグラのミルフィーユ



    続いての”前菜”として「大人のサンドウィッチ フォアグラのミルフィーユ」が登場。

    今回は、ちょっと一風変わったお夜食風な感じでのメニューをお願いしたのですが、これがその一品です。
    何時も食べているサンドウィッチを豪華で、しかも軽く食べる事は出来ないか……そんな事で浮かんだのが「フォアグラのサンドウィッチ」

    しかし、曾村氏もプロ。単純に「サンドウィッチ」に「フォアグラ」を挟むと言う事はしなかったようです。
    曾村氏はサンドウィッチをブリオッシュベースにしてフォアグラを挟み、ソースに苦めのコーヒーのソースを合わせた一品を作ってくれたのでした。
    シナモンスティックのちょっと甘い中に木の皮の香りと、コーヒーの苦みが合わさって、フォアグラの甘さを抑えた素敵な苦みが口の中で生まれました。

    なるほど、とてもエキゾチックな感じのテイストで、”夜”と”大人”と言うイメージにしっくりと来る感じがします。
    普通のパンでは無く、ブリオッシュ仕立てなのも凝っていますが、”甘くない”ブリオッシュなので、パンの味と言うよりも小麦の味の方が前面に来て、なかなか斬新な体験でもありました。

前菜:ヨシキリ鮫のクネル オシェトラキャビアを添えて




    今回の”大人のお夜食”と銘打ったメニュー
    じつは、「フォアグラ」「トリュフ」に「キャビア」&「チョウザメ」を使ってくれると嬉しいな?という事を事前にお願いをしていました。
    それは、以前日本でもチョウザメの養殖に取り組んでいると言う記事を見た事があって、もしその話が継続して成功していたら「日本産のチョウザメ」を食べられるかも?と言う事を想ってのことだったのですが、どうやらこれをお願いした2016年当時は「日本産のチョウザメ」はなかなか厳しい状況で、「チョウザメ」で一品と言うのは難しいとの事でした。
    その代わりに曾村氏が探してくれたのが【三陸のヨシキリ鮫】。それを贅沢に使ったのがこの一品と言う訳です。

    (これは、たまたま自分が2009年位に群馬県でチョウザメの養殖が試みられて、そのチョウザメを食べる事が出来ると言う新聞記事か何かを覚えていての事だったので、元々、チョウザメの入手可能性から実現が可能なメニューかどうかは分からず、「チョウザメが入るなら」と言う事でお願いをしたのでした。どうやら、その後(2016年以降)日本でもチョウザメの養殖に本腰が入った様で、あちこちで地域活性化の一策でのチョウザメ養殖とキャビア採取の声を効く様になりました。その甲斐あってかアタゴールでもチョウザメが入手可能になったとの事で、2018年のクリスマスにはチョウザメを使った豪華なメニューが登場したのでした。残念ながらワタクシはアタゴールのクリスマスメニューを味わう事が出来なかったのですが、その代わりにチョウザメを使ってのメニューを2019年に改めてお願いする事が出来たのでした。)

    【鮫】は入手出来たものの、これをどの様なフランス料理にしようか……そんな事がアタゴール参謀本部では会議が行われたそうで(と、当時アタゴールに在籍していた山田氏がお話してくださいました)、皆で【鮫】をつつきながら(食べながら)辿り着いたのが、フランス料理の王道の【クネル】。
    「鮫のクネルリヨネーズにオシェトラキャビアを添えて」となったのでした。

    フワフワの鮫の身のクネルに、少々コニャックが効いたソースが絡んで”まさに大人の味”、そして粒よりのキャビアが妖しい光を放っています。
    支配人の市川氏曰く「曾村が【鮫でハンペンを作るぞ】と言っていました」というものの、どうしてどうしてそんな”ハンペン”などというものではなく、非常に身がねっちりと詰まった”鮫大福”と言うような【鮫のクネル】でございました。

グラニテ:花梨のグラニテ メイン:オムレット トリュフ




    お口休めは「花梨のグラニテ」
    先ほどの「鮫クネル(サメクネ? シャークネ?)」の迫りくるような質感とコニャックソースが残る舌に、硬い甘さの花梨が現れて、その痕跡をあっさりと消し去っていきました。
    毎回、グラニテについて書いてあるのは「口をさっぱり」と言うあたかも判で押した様な感じになりますが、(実際、それ以上それ以下では無いと言う意味でもなかなか書きようもないのだが)どうしても”機能的な側面”に注目をしてしまいがちな事も確か。
    そういう部分では可哀想な役回りでもありますが、しかしこれが食事の間に入るのと入らないのとでは雲泥の差でもあるので、必要欠くべからざる存在でもあるし、間に季節感を感じさせるアイテムでもあります。
    ここアタゴールのグラニテは、所謂”パチパチ君”と呼ばれるシュークルペティアンが入っている場合と、今回の様に入っていない場合があります。
    どちらも素敵ですが、(ワタクシの様にお酒が弱い場合には)今回の「鮫クネルのコニャックソース」などを打ち消してくれるにはシュークルペティアンが無い方が良かったりもするので、そんなところのアレンジだったのでしょう。

    さて、肝心の「オムレット トリュフ」
    単純に言えばトリュフのオムレツですが、良く知られている【トリュフのオムレツ】は、卵をトリュフと一緒に置いておいてトリュフの香りを卵に移すと言うもの。
    この場合に、卵を割った状態のモノでは無く、”殻付きの卵”すなわち卵を割らない状態でトリュフと一緒にしておくのです。
    そうすると、あら不思議、卵の殻を通してトリュフの香りが卵に移るのです。
    ”卵の殻が呼吸している”と言う事を利用した方法でもありますが、今回の曾村氏の【オムレットトリュフ】は、その方法では無く、オムレツに「ソースペリグー」をかけて、更に、曾村氏のスペシャリテでもある「トリュフのスープ」のクレームトリュフを合わせて、その上からまたトリュフを摩り下ろした豪華版です。

    オムレツの卵の甘さ、ペリグーソースの糖質の甘さ、クレームトリュフの軟らかい甘さ、そしてトリュフの甘い芳香と、まさに”トリュフ重ね”の素晴らしいオムレツ。
    これは、単に豪華なと言う部分もさることながら、これだけ豪華な素材(ソース)を重ね合わせて下品にならないようにすると言う”匠の巧みさ”にも通じます。
    こういう素晴らしいもの(「味」の上でも、「構想」の上でも、「技術」の上でも)を食べていると、”料理は宇宙”と言う言葉の深淵さも何となく理解が出来たと思うヒトトキでもあります。
    【銀河連奏】あるいは【銀河錬奏】とでも言うべきでしょうか?

    トリュフの雲海が重なった波間から顔を出す黄色いオムレツはまるで月のようで、僅かに散された銀杏の身が、そのアンニュイな秋空を表した”大人の夜空”を顕していたのでした。

デセール:和栗のクリームブリュレとココアのアフォガード




    デセールは「和栗のクリームブリュレとココアのアフォガード」
    最後の締めくくりのデセールは甘いクリームブリュレですが、秋の風物詩の栗は、甘さ控えめな大人の味の「和栗」
    そして、砂糖を足してないココアのアフォガード。
    秋の夜長を満喫する【大人のお夜食】の数々……どれも秀逸な品ばかりのお夜食でしたが、そこに垣間見るのは【大人の料理人のエスプリ】でもありました。

    ゴロッとした栗を頬張りつつ、アフォガードの淡雪を舐めながら控えめな甘さを感じる11月の末。
    そろそろ街はクリスマスの賑やかなシーズンを迎えますが、その賑やかな足音とは違った空気や夜の月の張り詰めた、いや朧げな感じに心奮わせるのもお洒落な一時ではないでしょうか?


今回、山田氏が作ったメニューカードの中で料理名の一つに
【冬の媚薬 全てを置き去りにして今一つになる】
とのネーミングを提案したところ却下になったとの事でした。