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2016年06月20日:ルイお誕生祭 【氷の彫刻とベイクドアラスカ】@A ta guele (アタゴール)

    ルイの何回目かのお誕生祭……せっかくだから、何か何時もと違う事は出来ないものか?……と言う事で、木場のアタゴールで、今まで頼んだことが無いものをお願いする事にしてみました。

位置皿 アミューズ:イベリコ豚のチョリソー スープ:トリュフのパリソワール



    アミューズとして、イベリコ豚のチョリソーと、鎌倉野菜が出てきました。
    この時期、非常にムシムシして毎日を過ごすのが億劫になるのですが、辛目のチョリソーと瑞々しい鎌倉野菜のコンビで身体に喝が入ります。
    鎌倉野菜の美味しさにびっくりしたのは2011年頃の事なのですが(その事はこちらで)、アタゴールで頂く鎌倉野菜は本当に土の味がして、シェフ自らが鎌倉で仕入れてくる事での揺ぎ無い信頼感がなせる業だなぁと思う訳です。
    そして、最初の前菜であるスープ。アタゴールを代表するスープでもある「トリュフのパリソワール仕立て(Soup de truffe d'te en Paris soir)」を頂きます。
    クリームのしっかりとして、しかしサラリと流れるような喉越しと舌触りに、トリュフのむせ返る様な匂いを楽しみながら、しっかりと肉の味の煮出たコンソメの冷たい感覚を楽しみます。
    初夏のアタゴールでは何時も頼んでしまい、他に飲みたいスープがあってもついつい頼んでしまう素晴らしいスープを飲んで、今回もご機嫌なワタクシなのでした。

前菜:仔牛のタジン鍋



    次に「仔牛のタジン鍋(Tajine de veau en navarin)」が登場。

    この暑さゆえ、この蒸し暑さゆえ、身体の中から汗をかくような”グツグツと煮えたぎる”タジン鍋は冬だけでなく、夏のご馳走だとも思っていて、これを食べると非常に身体の中が逆にシャっきりとするのが不思議です。
    思えば、”tajine”はモロッコ他マグレブ諸国で共通に見られる料理法・料理器具ですが、アフリカ特有の暑さに対応した調理法を、ここ最近の異様な暑さの日本でも使わない手はありません。
    日本では、「野菜を大量に食べれる」と言うヘルシー志向が受けて流行り出したタジン鍋ですが、個人的にはヘルシーさは度外視して”美味しいかどうか”と言う部分の価値観なので、「香りを逃がさない」とか「巧く対流する」とかの方に興味が惹かれたりします。
    モロッコ辺りの話を見ると、このタジン鍋を仕事前に預けて、仕事が終わったら取りに行くと料理が仕上がっているなどと言う独身者向けの話などがある様ですが、何とも巧く出来ている調理器具と言う部分と、ある意味合理的な社会システム(+タジン鍋が食材の水分だけで大丈夫と言う辺りも)に驚いたりもして、益々このタジン鍋に興味を持ったりもしました。
    イスラム圏では、食材に色々な制限があるので、「鶏」や「羊」「鳩」と言った食材でするタジンがポピュラーで、「檸檬と鶏」や「牛肉とプルーン」のタジン鍋があるようでしたが、今回は「仔牛」を使っての煮込み(ナバラン風)にして貰いました。

    蓋を取るとグツグツと言うタジン鍋が目の前に供されます。仔牛の柔らかい肉と熱々のスープをフーフー言いながら食べて、水を飲み、食べて水を飲み、エンドウ豆を消火剤にして再度食べ進めて行くと、ものの数分で鍋には何も残っていない状態になるのでした。
    冬の時期に食べると身体が芯から温まる”ナバラン(navarin)”を初夏の時期にこうしてタジン鍋で食べるとまた違った風情があります。肉にスープが沁み通っていてしかもグツグツと煮えたぎった状態で出てくるタジン鍋で冬場も食べたらきっと美味しいだろうなぁと思ったりもするのでした。

    お口直しに「メロンのシャーベット」を挟んで、メインを待ちます。

メイン:仔牛のカツレツ(Cotelette de veau)




    今回のメインは「仔牛のカツレツ(Cotelette de Veau)」をお願いしました。

    仔牛のロゼの断面が素晴らしい一品。柔らかい仔牛に油で程よく上がった衣を頬張ると思わず笑顔になりますが、付け合わせのグリーンピースのソース(sauce saint-german)と仔牛のジュ(jus)のソースが溜まりません。グリーンピースの野菜の甘さとジュのしょっぱい感じが合わさって淡白な仔牛に色を付けてくれます。
    そして、今回一番手が込んでいるのが仔牛の上を覆っている”カフェドパリバター”。この独特のバターがある事で、仔牛のカツレツが一段も二段もレベルアップしたフランス料理になります。
    しかし、本当にフランス料理のシェフの技量と言うのは驚くべきものがあります。
    美味しい仔牛を揚げる事が出来ればそれだけでトンカツ屋になる事は可能でしょう。しかし、トンカツ屋の方が美味しいソースや、この様な複雑なカフェドパリなどを交えて料理が出来るのかと言えば難しいぶぶんはあると思います。
    そう言う意味では、フランス料理を作れるという事は、あらゆることに精通していないとやっていけない職業の一つなのだと思うのです。

    付け合わせのポムデュシェス(pommes duchesse)の丁寧な絞りを慎重に崩しながら、そのままで、或いは先ほどのサンジェルマンソースやジュをまぶして食べ進みます。
    仔牛のカフェドパリも、付け合わせのポムデュシェスも、この2倍あったら幸せなのにぃ……などと妄言をほざきつつ、静かにそして満足してメインのお皿が片付けられて行くのでした。

デセール 氷の彫刻とベイクドアラスカ




    そして……本日の(秘かな)メインイベント……デセールが運ばれてきました。


何なに???
白いモンブランみたいなのが!!!


    実は、今日のデセールについてはお任せで、何も知らなかったのでした。

    ガラスの器に入って出て来たデセールは”ベイクドアラスカ(Omellete norveigienne ou omellete en surprise)”と呼ばれる特別なデセールだったのです。
    「ベイクドアラスカ」はジェノワーズ(genoise)と呼ばれるイタリア風のスポンジにアイスクリームを乗せて、それをイタリアンメレンゲで覆って、フランベなどで焼き色を付けるお菓子ですが、非常に手間暇がかかるのと、上手く出来る人が少ないのもあって、主にホテルなどの宴会で出てくるレアなお菓子でもあります(九段下のホテルグランドパレスなどが有名)。
    そんなデセールが出てくるとは夢にも思わず、まさに天にも昇る心地であったワタクシ………
    これにフランベをして、一気にこの白い山が噴火しているような幻想的な雰囲気に包まれます(携帯で写真が取れなかった)。
    噴火している様に見えるので「ベイクドアラスカ」。例によってアメリカ的な表現を認めないフランス的表記では”Omelette norveigienne(オムレット・ノルヴェジエーヌ)”あるいは”Omelette en surprise(オムレット・アン・シュルプリーズ)”と表記して、「ノルウェー風オムレツ」「びっくりオムレツ」などと呼称します。

    お店からの素晴らしい”それこそサプライズ”に感極まりつつ……燃える炎に興奮するワタクシ………

    そして、この連続するベイクドアラスカの3枚の写真の右側のガラスの器の後ろで一際滑らかかつ透明な光沢を放っているものがあります。
    これが、今回、特別にお願いして作って頂いた”氷の彫刻”なのです。
    これは、たまたま”お誕生祭”に何を食べようかと言う相談をしていた際に、当時スタッフとして働いていた山田氏と氷細工の話になって、アタゴールでは氷細工やってますよ的な話になるに及んで、それをお願いしようと言う算段になったのでした。

    こうして、特注で氷細工をアタゴールに頼んだワタクシですが……それはもう(モノを知らない素人ゆえの恐ろしさで)ワクワクして「御所車」が良いかな?とか「金閣寺」が良いかな?と妄想が炸裂した訳ですが……支配人の市川氏と氷細工の詳細を詰める際に、「氷のサイズから『金閣寺』は難しいですかね?」と言う事になり、最終的にはお任せする事になったのでした。
    と言うわけで待ちかねた”氷細工”がデセールの後で恭しく運ばれてきて、有頂天になるワタクシ……
    (嬉しさの余り挙動不審になり、写真を撮り忘れると言う大失態をおかしたものの)”帆立”を模した氷細工の透明で厳かな質感を前に、ガラスの器の中で燃え盛るベイクドアラスカ……幻想的と言うのは、余りにも自分の語彙力の少なさを恥じるばかりの表現ですが……
    余りの素晴らしい”お誕生祭”に我を忘れると言う一世一代の失敗をしたのですが、しかし、大変に心に残る”お誕生祭”になったのです。
    (後々、話を聞くと、どうやら到着した氷が大き過ぎて大変な騒ぎだったようでした。この場を借りてアタゴールの皆さん改めてありがとうございました。)




デセールとプティフール




    感動的なベイクドアラスカと氷細工を堪能し、去り難い気持ちを抑えつつサロンカーへと移動しました。
    (ちなみに左側の写真は、フランベする準備をするアタゴールのスタッフの方々)
    プティフールと一緒に盛られた曾村氏のカーヴィングの素晴らしさに目を奪われ、(ベイクドアラスカの写真にも黄色い見事な鳥がリボンを纏っています)、改めて、「素晴らしい”お誕生祭”だったなぁ」と紅茶を飲みながらご満悦な自分がいるのでした。
    「氷細工」は持って帰れないけど、心にしっかりと刻まれた印象深い思い出になった一品でした。
    料理も氷細工も「形」ではあるけれど、その形を維持して持って帰る訳にはいかないモノ達です。だからこそ尊いのですが、それはひとえに喜ばせよう、良いものを提供しようと言う心映えの世界だからとも思えます。

    アタゴールの皆さまに祝福を受け、幸せに包まれて列車を後にするお誕生祭。
    今日は楽しかったね ルイ。 明日はもっと楽しいね。と言う、とっとこハム太郎のロコちゃん類似のエンディングを胸に帰りの木場駅へと向かうのでした。