LINEで送る このページを Google Bookmarks に追加

大宮:2019年06月09日:鉄道博物館 トレインレストラン日本食堂


    以前は、東京駅のグランスタにあった日本食堂も、グランスタの拡張工事に伴って閉店して、暫くは【鉄道料理】と言うものとも距離を置く事になってしまっていた。
    神田駅の【神田鐡道倶楽部】なる所では、懐かしの「日本食堂のメニュー」を食べれたそうだが、それも2018年で閉店と言う事で、ご無沙汰だった【国鉄メニュー】を食べるにはどうしたら?と思っていると、どうやら大宮の鉄道博物館にレストランとして「日本食堂」が復活していると言うので、思い立ったが吉日と言う事で、さる日曜日に大宮まで出向いてみる事にしたのだった。
    正確に言えば、大宮からニューシャトルで一駅「鉄道博物館前」で下車するか、大宮駅から歩いて行くかして、凡そ2キロ前後離れた場所にある「鉄道博物館」。
    大宮と言えば、駅周辺は巨大なJRの整備場になっていて、近くにはJR職員住宅もある、”JR城下町”であったりもする。
    今回は、初めての訪問だったが、その雰囲気を味わう意味もあって大宮駅から歩いて行く事にした。
    歩く事、20分前後、JRの大きな施設や工場を壁向かいに道なりに歩いて行く。これだけ巨大な整備場やら施設やらがあるのだから、その近くに鉄道博物館を造る事などはお手のモノだとは思うが、実際に歩いてみると、【JRは国家なり】と言う言葉の意味も少なからず分かる様な気がした。

    (左)入り口(中央)雰囲気溢れる内装



    鉄道博物館について、エントランスに入るとだだっ広い空間がお迎えしてくれる。少し近未来的な様相のした博物館のエスカレーターに乗って2Fの奥が目指す「日本食堂」であった。
    新幹線世代でもあるワタクシとしては、子供の頃は、新幹線に乗るたびに食堂車で「ハンバーグ」を食べる事を楽しみにしていて、それこそ、ナイフとフォークの食堂車のセルロイド状のプレートを見るとワクワクしていたのを思い出す。
    また、4半世紀ほど前、仕事で広島に行った折、「新福山」から「東京」まで、ずっと食堂車で飲み喰いをしたと言う懐かしい記憶も思いだされたりもする。
    もちろん、日ごろ食べているものと比較して”飛びっきりの美食”かと言われれば違うのだが、【鐡道は国家なり】の中で全てが揃う鉄道と言う組織体の中で提供される食事は、なかなかバランスの良いポイントを突いていた様に思う。
    そんな事もあって、たまに無性に食べたくなる「日本食堂」のメニューだったりもするのである。

    そんな懐かしい郷愁を抱きつつ、2Fにかなり奥に行くと、仄かに光る空間があって、そこが今回お目当ての「日本食堂」であった。
    丁度、昼の時間を外れた頃合いでもあったので、さほど混んではおらず、直ぐに席に着くことが出来た。

    (左)メニュー(入り口)(右)サラダが三皿?



    大宮から歩いた事もあって、十分にお腹を空かせては来たので、食べようと思えば、かなり制覇出来そうな勢いでもあったが、何やらここ暫くは体が”カレー”を求めている事もあり、兎に角”カレー”を頼む事が最優先であった。
    一通りメニューを睥睨した後、「食堂長自慢のスぺシャルハヤシライス」「食堂車のビーフカレー」「ミックスフライ」の三点を頼む事にした。
    実際、「和牛すねハンバーグ」や「ビーフシチュー」にも心動かされたのは間違いなかったのだが、どうも”ソース系”と言うか”カレー系”と言うかで比較をしてみたいと言うことがこの時の根底にあったかと思われのだが、今、振り返ってこれを思い出すと、「何をしたかったのやら?」と汗顔の至りでもある。

    先ず、運ばれて来たのは「サラダ」が三皿……
    何やら、どの料理にも「サラダ」が付くようで、だから「三皿」……
    これを融通が利かないと見るべきか、鉄道における【規則第一主義】の顕れと見るべきか逡巡もするところだが、折角出て来たものなので、順々に食べる事とした。

    (中央)食堂長自慢のスペシャルハヤシライス(右)店内から



    最初に運ばれて来たのは「食堂長自慢のスペシャルハヤシライス」。
    残念ながら、メニューに載っている様な、ライスの上に漆黒のルーがかけられて、その上に生クリームがエレガントに乗っている状態では無く、生クリーム付きのルーと白米は別の仕様で登場をした。
    黒い、どこまでも黒い漆黒のルーは、”食堂長自慢の”と付くだけあって、非常に手間暇をかけて作られているのが、口にすると直ぐに分かる。
    「自慢の」「スペシャル」と、二つも強調をする言葉が付加されたそれこそ【特別な】ハヤシライスは、その名前通りの美味しさで、作っている人間の”どや顔”が舌の上に浮かぶような一品で、【看板に偽りなし】の代物だったのでした。

    (左)米はやっぱりコシヒカリ(中央)食堂車のビーフカレー



    続いて、「食堂車のビーフカレー」。
    これがなかなかどうして、先ほどのハヤシライスよりも美味であった。
    おそらく、スパイスの利き方がかなり良かったと言う事もあったのだろうが、甘くなく、かと言って徒に刺激だけが尖っているカレー屋のカレーとは一線を画した上品なカレーを前提にした上でのスパイシーさでもあった。
    また、結構大きな塊の牛肉がしっかりと入っていた事も驚きであった。食べ応えのある牛肉を噛んで繊維を確かめつつ、カレーのルーをまぶして口に入れる。
    【文明開化】の象徴としての「カレー」。同じく【文明開化】の先鞭をつけた「鉄道」。共に日本の近代化を進めた両輪である事を考えると「食堂車でカレー」と言うのは、一番場に合った食べものなのかもしれないと言う想いが浮かんできたのだった。

    (中央)ミックスフライ(右)パンとサラダとミックスフライ



    ビーフカレーを堪能していると、「ミックスフライ」が運ばれて来た。
    「白身魚」「海老」「カニクリームコロッケ」の三点が盛り合されたものであった。
    運ばれて来たその瞬間に素晴らしく揚がったものだと言う事が分かる位に素晴らしい揚げ方であった。
    タルタルソースにレモンにポテトサラダの付け合わせもシンプルで、パンとサラダと一緒にこの一皿を置くと、何か非常に静物画的な印象を感じさせる作品の様な雰囲気を感じた。

    (左)海老(中央)白身魚(右)カニクリームコロッケ それぞれの断面



    運ばれて来た時に素晴らしい揚げ方であると瞬時に思ったように、それぞれにナイフを入れると非常にサクッと入っていった。
    しっかり火が入っている上にちっとも油っぽくない。
    誰が揚げたのかは分からないが、この揚げ方には一日の長を感じる部分であった。
    ある意味、「ハヤシライス」や「カレー」のレシピは、それまでの積み重ねの集大成でもあるだろうから、レシピにどの程度忠実に行うかが大事な部分でもあるが、”揚げる”方は、実戦経験の積み重ねが上手下手に繋がる部分であるから、このフライを揚げたのは粗糖に”上手な”人であったのだろう。
    残念ながらこのミックスフライの中で「海老:○」「白身魚:△」「カニクリームコロッケ:×」と言う【三者三様】なものだったのだが、それを差し引いてもの”素晴らしい揚げ方”が印象に残っていると言うのは、本当に大したものだったのだろう。
    (「カニクリームコロッケ」が×なのは、中味に「カニ」が見当たらなかった事による。カニの味はホンノリとしたが、ちょっとそれでは残念な……と言う事なので。)

    とは言え、この日本食堂のメニューを久しぶりに食べて、【規則通りの運営】が出来る”国鉄(JR)”ゆえに、”料理”と言う分野においてもしっかりとした一定の水準を常に維持していると言う事は良く分かったのであった。
    かつての【つばめ族】時代ではないだろうから、”最高のものを追求”と言う場面で無い現時点では、”外れない美味しさ”に主眼を置いた「日本食堂」のコンセプトは、大量に一定の質のモノを提供すると言う分野における【金科玉条】である事を示しているのだなと認識した良い機会でもありました。