LINEで送る このページを Google Bookmarks に追加

三越前:2011年09月09日:千疋屋総本店 デーメテール


    日本の【西洋料理】と呼ばれるのモノは、【フランス料理】としての進化を歩んだものと、【洋食】として進化を歩んだものとに分かれている。
    元は、日本以外の国々の料理全般を指す事になるが、最終的には、当時の強国であり、かつ1868年当時のヨーロッパで一世を風靡しつつあった【フランス風の料理】が導入されていった事が大きいのだろう。
    もし、【イギリス風の料理】を導入していく流れであったならば、今の様に「コロッケ」や「ハンバーグ」などは存在しておらず、「カレー」を中心とした料理が幅を利かせる事になっていたかもしれない。
    そんな何とも言えない偶然の所与を経て、今の豊かな日本の各種料理の興隆がある訳だが、その様な豊かな日本の西洋料理の導入の走りともなった「パーラー」に興味を持ったので、1913年(大正2年)に「フルーツパーラー」を日本で初めて開いた「千疋屋総本店」にランチを食べに行く事にしたのでした。

    (左)(中央)小海老とアボガドのサラダ(右)パン




    【千疋屋】は高級フルーツの代名詞でもあり、その高級フルーツを使った「フルーツバイキング」で最近は有名であるけれど、本店である日本橋店には【洋食】を食べる事が出来る「デーメテール(DE'METER)」があります。
    冥界の王プルートと結婚した豊穣の女神デメテールに由来する店名ゆえ、フランス料理かと思いきや、【洋食】としての看板を掲げているのは、”日本の西洋料理”の先駆者であると言う矜持かもしれません。

    本来ならば、フルーツパーラーとして「パフェ」や「果物のアイス」などを食べるのが定石の様な気がしますが、今回は【洋食】を感じると言う部分が根底にあるので、@5000円のランチコースを頼む事にしました。
    (※ 2019年現在では、5000円のコースは事前の要予約になっているようです)

    コースのラインナップとしては「前菜」「スープ」「魚」「肉」「洋食(ご飯もの)」「デザート」となっていました。

    まず、最初の前菜として出て来たのが、「フォアグラのポワレ」。
    いきなりのスタートが「フォアグラ」とは結構大胆な切り込みをしてくれると思いました。
    結構な大きさのフォアグラにマデラソース仕立ての甘い系のソースがたっぷりとかけられて、なかなかどうして、しっかりとしたフランス料理のテイストでありました。
    次にスープとして「コーンポタージュ」。
    最近のサラサラ系のコンポタでは無く、小麦粉とバターをしっかりと合わせて作った”もったり系”のポタージュです。
    器もシンプルだし、一見すると上品なポタージュである事には間違いないのですが、何か懐かしい親しみを覚える味わいでした。
    続いて運ばれて来たのは魚料理で「ホタテのソテー」。
    これも結構大きめなホタテをシンプルに焼いて、茄子と茸(しいたけ)とブロッコリーをあっさり焼いたものが添えられています。
    しかし、特筆すべきは、ここにかけられている”ソース”。これも結構しっかりとバターが使われているいて、ホタテをソテーしたシンプルな味に鈍器でぶつかる様な刺激を与えてくれます。
    「魚」が終わると「肉」の出番となりますが、特に珍しいものを登場させるのではなく、「和牛のステーキ」が登場。
    これもまた、ホタテと同様に非常に火入れが大胆な感じにして繊細な呈であって、重すぎず軽すぎずと言う丁度良い塩梅。
    こんあ感じでサクサクと進んでしまった訳ですが、この肉料理の後は、ある意味、今日のメインとも言える【洋食】の出番。
    洋食は幾つかの中から選択が可能で、千疋屋総本店の代名詞とも言える【マンゴーカレー】にするか、洋食の華とも言える【オムライス】にするかで悩みましたが、今回はオムライスを選択する事にしました。
    暫し待つ間、新しく建て替えられた千疋屋本店の大きな大きな天井や、これまた大きなガラスで彩られた店内を観ておりました。
    恐らく、1913年に建てられた際も、人々の興味と興奮をそそる空間であったのだと思いますが、こうしてほぼ100年を経て新しい技術で造られた店内も、非常にラグジュアリーな雰囲気で、星付きホテル様な高級感とくつろぎ感を感じる事が出来ます。
    100年前と今とでは、「洋食」の中味も変わった部分はあるでしょうが、何処か余所行きで、人々の心をウキウキさせるものと言う点では、料理も設えも変わらないのだと思うのでした。
    さて、そうするうちに綺麗に綺麗に作られた「オムライス」が運ばれてきました。
    余りにも良く出来たオムライスは、あたかもフエルトの様な質感を持った魔法の食べ物の様ですらありました。
    そして、このオムライスに付いてくる「ケチャプ」……流石、千疋屋と言う処でしょうか、”かくも甘いトマトを知らずや”と言うトマトケチャップ。
    それは自分達で素材を集める事が出来る強味が十二分に活かされた”料理”でもありました。
    オムライス自体ももちろんの事、その味付けに使うであろうケチャップも自家製であると言う部分に【千疋屋の洋食】と言うイチジャンルがあるとも言えるでしょう。
    だが、【千疋屋】の流れはここで終わる訳ではありません。
    「デザート」として、「フルーツの盛り合わせとパッションフルーツのソース」がフィナーレを飾ります。
    もちろん、このフルーツ自体も吟味したもので何をも言う事は無いのですが、”パッションフルーツのソース”が非常に素晴らしいの一言。
    パッションフルーツの甘酸っぱい刺激が、フルーツの甘さに違うベクトルも付加して更なるフルーツの美味しさを引き出す役割を担っています。
    これこそ、果物を知り尽くした千疋屋の素晴らしいスペシャリテでしょう。
    フルーツと言う舞台の上で、更に新しい次元へといざなう……それこそ”パッション”と言う名前に相応しい役割だと思うのでした。

    こうして、段々に盛り上がった千疋屋のランチコースは大きな大きな余韻を残して終了していきました。
    思えば、「スープ」も「ホタテ」も、フランス料理の様にしようと思えば出来るところを「洋食テイスト」な感じでアレンジしているのは、フランス料理も出来るけど、自分達は【洋食の先駆者】と言う意識が根付いているからかもしれません。
    【洋食の先駆者】にして【果物の代名詞】に裏打ちされた千疋屋の料理は、まさに自分達の強味を活かした”日本の料理”と言う意味合いを強く感じたのでありました。