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茗荷谷:2013年02月17日:レゼールデカー(Les Ailes des K)


    有楽町のアピシウス(Apicius)の料理長だった小林定氏が、退職後に開いたお店が出来たと言うので、訪れてみることにした。
    小林定氏と言えば、2018年に亡くなったポールボキューズの直弟子に数えられる数少ない日本人シェフの一人で、高橋徳男氏の後を継いでアピシウスの料理長を務めた人物である。
    店名の Les Ailes des K は、”Kの翼” と言う意味で小林定氏のKと、今回一緒に店を出すことになったお弟子さんの渋谷恭平氏のKの”2つのK”と言う意味で付けられたとの事。

    (左)シルバーのプレート(中央)グジュール(右)アミューズ



    少々薄曇りの2月、茗荷谷の瀟洒な住宅街を歩いて行く。お店は、アピシウスと同じく地下に降りて行くと銀色の扉がある。

    当日は、私たちが行った時には既に人が居て、その後、個室を除いて満席になった。
    いわゆる、カウンター式で、小林氏が料理をするのを見る事が出来るのも一つのご馳走であった。

    メニューはお任せのコースのみ。

    最初にグジュールとアミューズが。

    この近くにはパティシエの飯坂憲一氏のお店があり、ここのパンは小林氏との縁で飯坂氏が作って毎日納めているとの事だった。
    (2019年現在、小林氏も体調が不良との事と、飯坂氏も大病をされた後との事なので、今も飯坂氏がここのパンを作っているかは不明)

    仄かに香るグジュールが、これからコースに入る事を告げてくれる。

    (左)ホウボウのクネル(右)エビと白貝のブイヤベース仕立て(右下)鹿のポワブラードソース



    ホウボウのクネルは、上品な白身にブールブランソースが敷いてあるが白身の優しさに沿うようなソースだったが、他のアピシウス系の方達の作るソースと違って、ソースの中にとてもクリアーな”水”の味を感じる事が出来た。表現が至らないのが何とも悔しいが、バターの黄色いソースなのに、”透明な水”を感じる事が出来たのである。
    聞けば、小林氏は北陸のご出身との事で、なるほど、北陸は水が綺麗だからこその、このソースだなと得心がいった。

    ブイヤベースも、アピシウス仕込みと言うよりは、先ほどのクネルの系統を感じさせるあっさりとした味わい。

    メインは、”鹿”との事で、やはりアピシウス出身の方達はジビエを得意とされている様で、ガツガツと食べ進み、気が付くと、もうメインまで終わってしまっているという状態であった。

    (左)お口直しのデセール(右)ミニヤルディーズのプレート(右)コーヒー



    お口直しのデセール他、ミニヤルディーズのプレートは、この時(2013年当時)、もう一人の渋谷氏の仕事であった。
    小林氏に見込まれたと言うイケメンの渋谷氏の手際の良さも見ごたえがあったが、何よりこのデセールが美味しいのである。
    渋谷氏の甘いマスクを見ながら、甘いデセールで食事を締めくくるのは、きつとご婦人方からしたら至福の一時であろう。
    コーヒーは、エスプレッソマシーンで淹れる形で、自分でコーヒーの種類を選べるタイプのものであったが、このエスプレッソマシーンは、アピシウス時代の後輩諸氏が開店祝いに贈ってくれたものだとの事であった。

    食事も終わり、コーヒーを飲んで寛いでいると、丁度もう一人のお客さんが入って来られた。

    「予約していた林です」と言って入って来たのは、何とアピシウスのスーシェフの林氏であった。
    開店間もない小林氏のお店のお祝いに駆け付けたのだろう。アピシウスの先輩後輩の力強い絆を垣間見た気がした。
    コーヒーを飲みおわって、林氏に軽くご挨拶をして、店を出る事にした。

    小林氏の”水を感じるソース”が非常に印象的で、流石、ボキューズに認められた方はご自分にしか出せないスペシャリテがあるなと改めて思うと共に、それ以上に、お弟子さん達との繋がりを強く感じるお店でもあり、小林氏のお人柄が分かる印象的なお店であった。