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三田:2012年06月05日:コートドール(COTE DOR)


    知人が行って見たいお店があるんですよね?と言う事で、急遽行って見ることになったのが”大御所 斉須政雄氏”が率いる「コートドール」
    この斉須氏は、盟友である四谷の北島氏と共に、戦後日本のフランス料理をホテル業界などとは違う立場・視点でリードしてきた大御所の一人でもある。
    (斉須氏のパリ留学時代に北島氏が転がり込んで半ば居候状態で過ごした事は名高いエピソードの一つである)

    (左)赤ピーマンのムース(中央)フォアグラのテリーヌ(右)十勝豚のロースト



    さて、折角来たのだから、やはりアラカルトでオーダーをしていく。
    やはり、斉須氏のスペシャリティである「赤ピーマンのムース」と「牛の尾の煮込み」は欠かせない。
    個人的には、「牛の尾の煮込み」だけでは足りないので、「十勝豚のロースト」も付け加える事にした。
    (ご一緒した方々は、「ヤガラのロースト」だったり「スジアラの蒸し焼き」だったりを追加していた様に記憶している)
    そして、デセールとして「ルバーブのスフレ」をお願いしたが、その時にサービスの方から「全部召し上がれますか?」と聞かれて奇異に思ったが、「皆、大食漢なんで大丈夫ですよ」と念を押したのだが、そうか皆さんそんなに召しあがらないのかしらん?とちょっと残念に思ったりもした。
    別に、牛飲馬食をする必要もないのだが、古今東西、食いしん坊のあきれるべき話はアチコチで見聞きする事が出来る。
    かの辻静雄の著作にも、「アルプスの山を越えようとしていた普通の坊さん達が数名が八人分食べた」とか「先生の集団が飲み喰いすべて平らげていった」などの話が引用されていたりもして、自分(達)などは、マダマダ口が綺麗だと思っていたりもするので、『「もっといかがですか?」と聞いてくれた方が良かったのに』などと(かなり真剣に)テーブルで話合ってしまった。

    閑話休題

    先ず、運ばれてくる「赤ピーマンのムース」。これは、オーダーして特別にと言うよりはアミューズ的な感じで出してサーブして貰った。
    斉須氏=赤ピーマンのムースと言う結びつきまで出来る有名な一品でもあるが、丁寧な下処理のおかげか、赤ピーマンの色が損なわれずに出ているのが嬉しい。
    1980年代~90年代にかけて、赤ピーマンのムースはフランス料理で一世を風靡した一品でもあるが、この一品を習得するためにいかほどの労苦をフランスでしたのかを考えると先人の努力と克己心に頭が下がる思いがする。

    次に、「フォアグラのテリーヌ」が登場。今では中々、鵞鳥の肝を使うフォアグラは難しくなったが、これまた丁寧に作られていてフォアグラ特有の甘さと脂っぽさが合わさって素晴らしい一品だった。

    そして、「十勝豚」。十勝は牛丼では無く「豚丼」で有名なお国柄のところであるが、豚肉に比してソースが力負けした部分があって、これに関しては少々残念な感じであった。

    (左)牛の尾の煮込み(中央)ルバーブのスフレ(右)コーヒー 



    いよいよ、メインの登場である。狂牛病騒動以来、”牛の尾”にありつけるのが難しい状況であったが、流石にグランメゾン級の物資の調達能力は目を見はるものがある。
    はらりと煮崩れるほどに赤ワインで煮込まれた尾っぽは、良くゼラチン質も煮出されていて非常に味わい深かった。
    (正直、ここで未だお腹が空いていたので追加しようかと考えており、他の方々もそんな雰囲気だったが、冒頭のやりとりもあったので止める事とした。)

    デセールのルバーブのスフレも写真で写っている様に、非常にしっかりと膨らんで良く出来ていた。
    コーヒーを飲みながら、「やっぱり未だ食べれそうだよね?」などと言う不埒な会話が再び盛り上がりかけたが、とりあえず、今回はお口を綺麗に退出する事とした。

    会計を終えて、出口に向かうと、斉須氏がお見送りをして下さった。同席して知人は斉須氏に握手をして貰い、「凄い力強い握手だった」と喜んでいたが、やはりフランス料理のシェフはある程度のお年を召されても腕っぷしが強くないと務まらないものだなぁと思うと共に、斉須氏自身が調理場で実際に作業をしていればこその握力の力強さだなと感じざるを得なかった。
    オーナーシェフとしての生き方は様々だとは思うが、こうやって最後まで調理場に立つと言う事は、シェフ(職人)としての鑑であると共に憧れの的でもあるのだろう。
    斉須氏やコートドールが高く評価されている事が良く分かった夜の一時であった。