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東京丸の内:2015年06月25日:三菱1号美術館 CAFE1894


    2015年4月26日からTV放映された「天皇の料理番」とのコラボメニューが三菱で行われると言うので、興味を持って行ってきました。
    勿論、この”天皇の料理番”とは、宮内庁大膳科司厨長の秋山徳蔵の事である。
    今まで、この「天皇の料理番」がTV化されたのは3回あるようで、1980年の堺正章バージョン、1993年の高嶋政伸バージョン、そして今回2015年の佐藤健バージョンと。

    ジョサイア=コンドルの煉瓦の建物は、この一見古風なコラボメニューの開催場所としては非常に合致していると思いつつ、中に入ると既に結構な人がいた上に、天皇の料理番メニューは夜のメニューと言う事で、3~40分程待つ事になり、漸く席に着くことに。


    (左)三菱1号館美術館 CAFE1894(中央)(右)天皇の料理番コラボメニュー



    コラボメニューは、秋山徳蔵のエピソードにちなんだものからのメニューで、秋山徳蔵が料理人への道を志すきっかけになった「カツレツ」と、大正天皇の饗宴の儀と言う国家的な威信がかかった式典を最初に手掛けた際のメニューである「ビスク・オマール」が内容となっていました。
    「カツレツ」は、明治に入ってきて文明開化を象徴する様なフランス料理(洋食)の黎明期の料理であって、秋山徳蔵も故郷の福井で、駐屯する鯖江連隊でカツレツを食べさせて貰って衝撃を受けたと言う、明治日本の当にヌーベルキュイジーヌにあたる歴史的な一品。
    「ビスク・オマール」も、大正天皇饗宴の儀のメニューとして軍隊まで動員して捕獲した材料のザリガニが逃げだすと言うエピソードを持つ、これまた金字塔的な一品。
    と言う事で、宮中でのお料理と言うよりは、TVでの秋山徳蔵のエピソードを体現出来るような内容を選んだのだと思いました。

    (左)ビスク・オマール(中央)チキンカツレツ(右)ポークカツレツ



    一品目のビスク・オマールですが、(コラボメニューと言う事もあってかと思いますが)非常に出来が良く、普通にフランス料理店で出されてもおかしくないレベルの申し分ない出来でした。よもや金曜会(三菱の社長クラスが集まる定例会)のシェフの方が作った訳ではあるまいになどと思う位の素晴らしい一品でした。
    元々、ビスクは甲殻類の殻をすり潰すと言う難儀な作業を経て完成する難易度だけでは無く、手間暇が非常にかかる料理な訳で、だからこそ天皇即位の饗宴の儀に登る様なメニュー。
    この時のオマールがどの様なオマールを使っているのかは分かりませんが、相当に気合いが入っていた様に思います。

    二品目のチキンカツレツは、鴨のコンフィを彷彿させるような中の肉の火の通り具合で、トマトソースとマスタードソースのお互い異なる酸味が大山鶏のクセの無さと相まって、見た目よりも上品な味でした。

    三品目のポークカツレツは、アーモンドを砕いたパン粉で揚げられていて、アーモンドの香ばしさとサクサク感が、只のトンカツを何断もランクアップさせてくれています。”カツ”と言うと、日本お専売特許の様な感じもしますが、元々は”cotelette:コートレット”と言ってフランスの調理技法とも重なるわけですから、技法一つで日本の料理かフランス料理かに変わるのは面白い所ではあります。これをグレービーソースで食べると中までしっかり火の通った肉にクレービーソースの味が重なって、肉の味が何倍にも増幅されて響きます。
    そして、付け合わせの野菜(芽キャベツ、小さい蕪、ジャガイモ)がこれまた美味しかったのも特筆すべきですが、野菜にかかっているチーズベースのホワイトソースが良く出来ていて、これ単体で一皿としても充分な位でした。

    (左)ビーフカツレツ(中央)CAFE1894内部(右)昔、銀行として機能していた窓口もそのままに残っている



    最後に、ビーフカツレツ。今回のカツレツ3種はどれも衣に工夫を凝らしていると言う事で、その丁寧な思考がとても素晴らしい。このビーフカツの存在が秋山徳蔵をして料理人の道にいざなうきっかけにもなった訳ですが、場所柄、福井と言う事で関西圏の食文化でもあったでしょうからの「ビーフ」のカツだったのでしょう。
    秋山徳蔵が食べたビーフカツが、このビーフカツの様にポテトのピュレの上に載せて上品なソースがかけられているようなモノではなかったと思いますが、肉を油で揚げて活性化させた味はそれまでの日本人が食べた事の無い味だったのは想像がつきます。
    日本の食文化、なかでも黎明期のフランス料理を体系化して根付かせた人物の一人である”天皇の料理番 秋山徳蔵”を産んだ、歴史的な一品……
    これこそ、三菱1号館の名前が示す様な、”始まり”を表わした一品なのでした。