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虎ノ門:2017年01月16日:ホテルオークラ ラ・ベル・エポック(La Belle Epoque)


    日本の高級ホテルの草分けにして、日本もフランス料理をリードしてきた存在の1つであるホテルオークラ。かつての総料理長である小野正吉と、帝国ホテルの村上信夫が双璧としてフランス料理をリードしたのは、戦後日本の壮年期とも言えるエネルギーに満ち満ちた時代でありました。
    2015年から始まった建て替え工事で、色々と変化が起きそうでもあるので、今のうち(2017年)に観ておこうと思い立ったある日でありました。
    オークラのメインダイニングである「La Belle Epoque(ラ・ベル・エポック)」は、ドイツ語でGutealtezaitととも称される1880年代から第一次大戦までのヨーロッパが輝いていた”古き良き時代”を指す言葉でもあります。
    (シャンパンにも同名の名前があるが、それではない)

    (左)位置皿(中央)アミューズのグジェール(右)甘エビのマリネ



    せっかく、オークラのメインダイニングに来たのだから、コースでは無く、アラカルトで食べる事にしました。
    まず最初は、小さなグジュール。チーズを練り込んで作る小さいシュークリームの様なものですが、それよりはもっと皮がしっかりとしてパフパフ崩れる様なものではありません。作り手にもよりますが、中に色々と詰める場合もあります。
    しっかりとチーズが練り込まれたグジュールは食欲を掻きたててくれますが、ここでお酒が飲める人は、このチーズの味でもう一杯とでもなるのでしょう。
    次に甘エビを軽くマリネしたものが出てきました。チーズの効いたグジュールの後の上品な甲殻類の身の甘さと柔らかいが舌の上を蠱惑的に通る感覚が溜まりません。

    (左)前菜(中央)フォアグラとトリュフのパヴェ(pave)(右)トリュフのシュー



    さて、運ばれて来た前菜は、「フォアグラとトリュフのパヴェ(pave)」と「トリュフのシュー」
    簡単に言えばテリーヌになりますが、色調が石畳みの様なのでpaveと言う場合もあります。コンソメゼリーとフォアグラとトリュフの重ね合わせが美味しくない筈がありません。
    そして、トリュフのシュー。先ほどのグジュールとは違いますが、見た目よりも皮はしっかりとして意外な感じでもありましたが、中にトリュフを挟み込んでいて、匂いと皮を味わうなかなか高度な仕掛けになっています。

    (器や盛り付けの構成が、何やら日本の生け花の様な感じがしますね)

    (左)オマールエビの冷製コンソメ(中央)鹿のロースト 赤ワインソース(右)ワゴンが???



    スープとして、「オマールエビの冷製コンソメ 雲丹風味とクリームキャビアを添えて」を。流石に一流ホテルのコンソメ。”隙が無い”の一言。にごり気の無い雲丹と徹底的に濾過された茶色いコンソメが奏でるのは19世紀のエスプリなのでしょうか?

    メインは、「鹿のロースト」。ホテルオークラで「鹿」と言うのも奇異な感じがしますが(ホテルオークラの名菜として名高いのは”ウェリントン”でもありますが)、個人的に鹿好きな事もあってこちらの方をオーダーしてみました。
    こちらに関しては、良くも無く悪くも無く、中庸と言う感じでしょうか。まぁオークラと言う高級ホテルの利用シーンを考えると、もてなす方も、もてなされる方も野性味が芬々と香るのは遠慮したいでしょうから、これは止む無しと言う事でしょう。

    (左)(中央)副支配人 一坪氏の華麗なるワゴンサービス(右)クレープシュゼット



    この日、このオークラに来たのにはもう一つ目的がありました。
    オークラと言えば、やはり華麗なるクレープシュゼット(Crepe Suzette)。イギリス国王エドワード7世が皇太子時代にモナコで一緒に食事をしていた女性の名前を冠したデザート。このデザートの名前の由来は色々とある様ですが、この時の事に影響を受けて、かのエスコフィエが洗練された形で今のクレープシュゼットを創作します。
    そのデセールを是非とも一度、”本丸”で味わいたいと思っていたのでした。
    副支配人の一坪氏による、華麗で流れる様なワゴンサービスは、それこそ1つの演劇を見ているかのようです。
    淀みなく、一分の隙も無く、一枚の小麦の皮が極上のクレープに仕上がっていきます。
    「料理人」には料理人としての、「サービスマン」にはサービスマンとしての「花」があるなと感じ入った次第。
    出来上がったクレープのグランマニエの甘い匂いを感じつつ、今日の一番のご馳走は、この一坪氏のワゴンサービスだったなと言う想いを胸にアイスクリームが溶けそうになっているクレープを平らげたのでした。

    (正確には、クレープをフランベしているので、Crepes Suzette Flambees となりますね)