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パ・マル仕込みのパイ包み @レストランKAIRADA

    かつて神田駅の南口を降りて泰正コインの目の前にとてつもなく濃厚で美味しいパイを出すお店がありました。テイクアウトも良し、中で食べても良しと言う素晴らしいお店でもありました。
    その名は「パ・マル」
    後に、六本木ヒルズ欅坂Bに同名のフランス料理店としても開店する、かの高橋徳男氏のお店だったのです。
    先日、ヒグマを食べに皆良田氏のお店に伺った際に、このパ・マルの事も話に出て、折角なので、この懐かしいパ・マルのパイを食べたいと言う事をお話したところ、作ってくださると言う話になって今回の運びとなりました。

トリュフのパスタ



    まず、アミューズに「小鯵のエスカベッシュ」
    次に、前菜として「トリュフのパスタ」が登場。
    どうやら、前回仕入れたヒグマ用にあつらえたトリュフだったらしく、香りも薄くなるしと言う事で、もの凄く思いっきりパスタにかけてくれました。
    トリュフの咽せかえる様な香りが充満したパスタ……それこそ、アレクサンドルデュマもびっくりだったでしょうか?

鳩のローストをジュで、グラタンドフィノーワを添えて



    続いての”前菜”としての「鳩のローストをそのジュで」+「グラタンドフィノーワ」
    ジビエシーズンでは無いので普通の鳩でしたが、丁寧な火入れで少々ロゼな感じの仕上がりに、鳩のジュでソースを作った不思議な透明感のある一品。
    まぁジュでのソースの作り方は千差万別なのですが、ジュが透明でもしっかりと旨味が出ているのもあれば、ジュの色は濃いけど旨味が薄かったりと、これも見た目だけでは判別がつかない不思議な生き物の様なものですが、今回のジュは透明感あふれるけれど、しっかりと鳩の旨味が出ておりました。
    ヤングコーンのシャキシャキつぶつぶした歯触りを間に挟みつつ、鳩のジュと、花びら状に敷かれた鳩の肉を満喫しました。

    グラタンは、鳩の透明感をある意味反映させたかのような硬質な感じの出来上がりで、ベシャメル自体もどちらかと言うとしっかり系で作られていて、土台のジャガイモに合わせた感じの出来上がりでした。
    鳩を食べ、芋を噛みとしていると、厨房の方から(レストランKAIRADAはオープンキッチンスタイル)香ばしいパイの小麦粉の匂いがしてきました。

牛肉のパイ包み焼き パ・マル風




    鳩を食べ終わって暫し……
    本日のメインである「牛肉のパイ包み」が登場しました。
    飴色のペリーソースの中に浮かぶ、卵黄と小麦粉がキツネ色に綺麗に焼けたパイは、トリュフの芳香とペリグーソースの甘い匂いと合わさって、えもいわれぬ食欲を無条件に掻き立ててきます。
    パイが焦げていてもダメ、余りに微かな火の通りでもダメ、かといって中の具の旨味を活性化させる様な火の通りでないとダメ、とパイの火入れは普通の火入れよりも難しいですし、目の前で自分で火を操って火を入れている状態では無く、一回オーブンに入れたら、後の具合はオーブン任せ、釜任せとなるので、美味しいパイを焼くには、個々の技術に加えて作り手の経験値も相当のものが求められるのです。

    かつて、高橋氏が神田のパ・マルで出していたパイは、それこそアピシウスでその名をほしいままにしていた高橋氏の実力がいかんなく発揮されたパイでした。
    記憶に未だに残っているのが「キドニーパイ」と「アップルパイ」
    正直、これは「パイ屋」の”パイ”では無く、「フランス料理屋」の”パイ”であることは、一口食べれば直ぐに分かるシロモノだったのです。
    なにしろ、パイ用に肉汁を煮詰めた茶色いソースや、アップルパイにつけるカスタードクリームソースが付いている”パイ”など、それまでも、それ以降もお目にかかった事はありません。
    神田の裏のこんな場所で、本格的なフランス料理がテイクアウト出来るなんて!!
    それこそ、この本格的な美味しさと、高橋氏が作っていると言う事で、たちまち店は大繁盛で、16時頃に何とか時間を作って神田に行ってもお目当てのパイは売切れで手ぶらで帰って来た事も何度かありました。
    奥に細長いお店で、店の奥はガラス張りでパイを作っているところが見えたのですが、そのガラス越しに高橋氏が他の方と一緒にパイを実際に作っておられました。
    そして、一種独特の雰囲気をお持ちだった高橋氏の奥様のみのりさんが会計をされていて、本当にそこは街場のパイ屋では無く、不思議なフランス料理の香りのする場所だったのです。
    そのパ・マルで高橋氏と一緒にパイを作っていた皆良田氏の焼くパイが美味しく無かろうはずがありません。
    事実、ワタクシメの目の前に運ばれて来たパイの素晴らしい事。
    このパイを作るにあたって、適当な牛肉が無かったので、わざわざ皆良田氏自ら松屋にまで牛肉を買いに行ってくださったとの事で、誠に感謝感謝なのでありますが、パイにナイフを入れてみて、牛肉の程好い厚さに加えて、丁度ミディアムレアの様に火入れがしてある様な出来は非常に素晴らしいものでした。

    最初はそのまま味わい、次はペリグーソースを付けて甘い味を挟みつつ味わい、パイ皮の部分だけで小麦粉の味を味わう………
    そうやって、パ・マル仕込みの皆良田氏のパイはあっと言う間に胃袋に消えていってしまったのでした。

デセール



    ペリグーの甘い匂いとトリュフの芳香を通過した後、最後を締めくくるデセールには、ブドウのワイン煮とブドウのババロア風。
    見た目ほどは甘くなく、パイ包みの余韻を楽しみながらコーヒーと共に頂きました。
    高橋氏が六本木の方にお店を開かれてからは、神田と六本木を行き来したとの皆良田氏の話に耳を傾けながら、「そう言えば、六本木のお店でもパイを売っていたよなぁ」などと思いだしていた自分がいたのでした。


神田のパ・マルは、お昼時にはランチコースで「パイ」と「スープ」が付いたセットが売られていてOLさんとかに大人気だったんだよ