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2018年12月31日: 2018年の締めくくりは【支配人市川氏のクレープシュゼット】@A ta guele (アタゴール)

    今年もお世話になったアタゴール……何やらHPを見ると、12月31日の御昼まで営業中との事で、クリスマスも行けなかったことだし、折角なので今年もご厄介になったお礼方々2018年最後のアタゴールを楽しもうとランチに赴く事にしたのでした。
    師走の市場も終わっている時期にも差し掛かっているので、特に珍しいものは入手が難しいのは承知しているので、ただ「タジン鍋」が食べたいと言う事を支配人の市川氏にお願いして赴いたのでした。

アミューズ:ウリ坊のリエットと鎌倉野菜



    2018年最後のアミューズは「ウリ坊のリエットと鎌倉野菜」
    一見、【赤富士】に見立てたような、生ハムと大根で出来たものが目を引きます。
    そして、今年も沢山頂いた鎌倉野菜たちで作ったピクルスや赤カブの酢漬けに、これまたちょっと柔らかめのパンにウリ坊のリエットを一口
    白いオリエント急行のお皿の透明感を感じるような清々しさを目の当たりにすると様々な事が走馬灯のように思い起こされ、今年も色々と曾村氏の手を煩わせ、市川氏にもご迷惑をおかけし、その他のスタッフの方々にもよくして頂いたなと言う事を深く思うのでした。

前菜:ラクレットチーズのフォンデュ



    前菜は「ラクレットチーズのフォンデュ(fondue bourguignonne)」
    アタゴールの定番メニューの一つであるフォンデュ。
    曾村氏が乗っていたオリエント急行は、アルプスの山々を通り抜けて運行している国際特急でもありますが、その経由地でもあるスイスを代表する料理である【フォンデュ】は、もちろん美味しい料理ではありますが、フォンデュだけを食べるとなるとちょっとツマラナイ事も確かで、色々食べたいけどフォンデュもという自分の様な食いしん坊には、こんな感じでメニューの一つに組み込んで貰えると凄く嬉しかったりもします。

    今を遡る事遥か昔、渋谷で遊ぶような元気があった頃ですが、丁度チーズフォンデュのお店があって物珍しさも手伝って何度か訪れた事があるのですが、何となくパンとちょっとしたハムやソーセージ、野菜などをチーズに潜らせてしまうと終わってしまって、何だか消化不良になった記憶があります。
    【チーズフォンデュ】の難しいところは、その塩梅でしょう。
    ワタクシの経験の様に、少なすぎても拍子抜けしてしまうし、今度は多すぎても、チーズを前面に出した時に来る単調さから飽きてしまう事にもなるので、それこそチーズを飲み干したいという強烈な欲求が生じない限りは、この様な形での前菜として食べている方が今の自分には合っている気がします。

    また、この【フォンデュ】なる言葉を調べていると、同じ「フォンデュ」でも”男性形容詞のfondu”を使った「fondu bourguignnoe(フォンデュ・ブルギニオン)」は、ブルゴーニュ地方のチーズフォンデュの事を指し、”女性形容詞のfondue”を使った「fondue bourguignonne」は、【アルプスの少女ハイジ】で有名な(我々にお馴染みな)チーズフォンデュになるようで、eの一字違いで大分距離が離れるのね……と妙な事に納得したのを覚えています。

    チーズフォンデュを温める固形燃料の炎を見ながら、そんな他愛もない事を考えていたのも師走ゆえの一時なのでしょう。

前菜:オニオングラタンスープ 黒トリュフのパイ包み




    続いてのスープは「オニオングランスープ」と「黒トリュフのパイ包み焼き」の2つという豪華なラインアップ
    どちらもコンソメをベースにしたモノですが、片方のオニオングラタンスープはコンソメを凝縮させて濃い目の味にチーズとパンの熱々した状態も合わせたもの、他方の黒トリュフのパ包み焼きは所謂【V.G.E】スタイルで、コンソメをクリアーな感じに澄ませてスープの中には銀杏と百合根、そしてトリュフが入ったものです。

    この時、曾村氏が”一足早いお節”をイメージしたかは分からないですが、「お雑煮」「お吸い物」を作ってくれたのではないかなと思いました。
    曾村氏は、ベルギー日本大使館の公邸料理人としてお勤めだったことから、新年のお料理で色々と作る場面もあったかとは思いますが、フランス料理で日本の「餅」や「餡子」を使って「お雑煮」「お吸い物」とするのも面白くないという曾村氏一流のエスプリがこの2品には込められている様な気がするのです。

    濃い目のコンソメに、パンと言う組み合わせは、あたかも「小豆のお雑煮に餅」を表しているのだろうし、【V.G.E】スタイルのパイ包みは、ポール=ボキューズの業績ではあるけれども、そもそもは日本の辻静雄がボキューズが講習会で招いた際に、大阪の吉兆や、京都の千花での食事の際にインスパイアーされたものでもあって、【日本の椀物】をイメージしたものでもあります。
    この日の曾村氏のパイ包み焼きには、てっぺんに黒トリュフの薄切りが一枚のっていました。これはきっと「椀物の蓋の高台」を表したものなのだと思うのです。

    ”フランス料理をして「和の心」を表す”……それは、オリエント急行で西洋と東洋とを駆け抜けた曾村氏の一つの心意気で、この2品はそれをも顕したモノだったのでしょう。

    誠に手前味噌的な感じではありますが、この様に過去の写真を整理して、それに文字で現そうとすると、今までには気がつかなった事も突如として見えてくるものがあります。

前菜:牡蠣のカークパトリック 自家製キャビアと鮟鱇の肝を添えて




    前菜の2品目は「牡蠣のカークパトリック 自家製キャビアと鮟鱇の肝を添えて」
    「牡蠣のカークパトリック」は、アタゴールの秋から冬にかけてのスペシャリテの一つで、牡蠣のふっくらとした身にたっぷりのソースを上にかけて焼き上げるものですが、ソースがある事でただの焼き牡蠣とも違うし、グラタンとも違うしの、また違う美味しさの境地になるのですが、今回の料理の数々が「新年を祝う」という意味が含まれているとするならば、この牡蠣の盛り方に加えて「キャビア2種」と「鮟鱇の肝」が添えてあるのは【お節のお重】をイメージしたものだろうと思うのです。

    「牡蠣のカークパトリック」の【赤いソースと黒い焼き目】
    「キャビア2種」の【フレンチキャビアの赤と自家製キャビアの黒】
    「鮟鱇の肝」の【赤と黒】

    下に敷かれている半透明の岩石状の置き石との対比も素敵ですが、それにも増して、【赤と黒】の重厚な色合いがくっきりと浮き上がって豪奢な気分にさせてくれます。

    また、今回の牡蠣の上に塗られているソース……何時ものソースよりもトマトを多く使ったとの事だったのですが、よくよく観ていたら、お正月料理につきものの「雲丹焼き」の様にも見えてきました。
    ”お節のように”と言う訳にもいかないフランス料理の一皿ですが、このように色々なものに見える・感じさせる構成は非常に面白いなと思うのです。

    「牡蠣」「キャビア」「鮟鱇」の海の幸の豪華な3種盛りは、見た目の豪華さだけではなく、当たり前のように美味しくて、まだこれからご馳走が続くのに、「もっとこれを食べたい」という何時もの悪い病気が顔をもたげてくるのでした。

柚子のグラニテ




    お口直しは、「柚子のグラニテ(granite de yuzu de KAMAKURA)」
    12月の風物詩の一つである「柚子」
    それは、冬至の日の「柚子湯」であったり、お正月料理の「柚子釜」を彷彿させるものですが、この冬至からお正月にかけては時が改まると言う事からか、「お金」に関する縁起を担ぐものが見られます。
    この丸くて黄色い「柚子」もその一翼を担うものなのですが、今日のグラニテが何時もの柚子のグラニテよりも色が濃い目に出ているのも、この辺を意識したものなのかもしれませんね。

    と言うのは、一つの想像でしかありませんが、先ほどの「牡蠣」「キャビア」「鮟肝」と言う濃厚な美味しさを味わった後だけに、何時もよりは濃い目の味の方が味覚をさっぱりとさせる……と言う意味合いもあったのだと思います。

メイン:山鶉のタジン (tajine de perdreau)




    メインは「山鶉のタジン」
    今日は特に何かをということでは無く、ただ単純に「タジン鍋」をというお願いの仕方でのお任せコース
    そのメインに曾村シェフが選んでくれたのが【山鶉】
    アタゴール(A ta guele)は、ベルギーでの大使公邸勤務を始め、かつての三ッ星のコムシェソワ、オリエント急行と、ヨーロッパの堂上貴顕へお出しする料理を担当してきた曾村氏の経験から、ヨーロッパの正統的な【ジビエ】の良さを日本でも味わって欲しいと言う事で、数多くのジビエ料理を味わう事ができます。

    長きに亘る狩猟文化の根付いたヨーロッパの厳しい「舌」に耐えうるジビエ料理を作ってきた曾村シェフですから、アタゴールで出されるジビエ料理はどれも本場ヨーロッパのオーセンティックな流れに曾村氏の経験や解釈が加味された素晴らしいものになっています。

    11月の狩猟解禁以来、幾つものジビエが入ってくる中での「山鶉」ですから、これはきっと意味がある事にちがいありません。

    ”新年”、かつて仏教の影響による四つ足禁止の時代が長く続いた日本では、新年を祝うご馳走も今のように四つ足では無く「鳥」を食べていました。
    ですから、宮中などにおいても堂上貴顕の方々が新年にお召しになるのは「鳥」その中でも「雉」を召しあがっていたのです(「雉」は現在、日本の国鳥でもある)。

    (では、日本の中で四つ足の動物は食べなかったのか?と言えばそんな事は無く、「イノシシ」を【山鯨】、「シカ」を【紅葉】などと読み変えると共に、「薬である」と称してそれを専門的に食べさせるところもあったのでした。※これを【薬石屋】と言い、今の領国にある”ももんじ屋”などはその流れである)

    それゆえ、旧年を送り、新年を迎えるにあたってのご馳走としては四つ足ではなく「鳥」……
    とはいえ、このジビエの美味しい季節には、とびっきりのジビエを食べて貰いたい……
    また、今回のメニューの含意として”フランス料理をして「和の心」を表す”と言う部分があるところ、「ウズラ」は非常に縁起が良い鳥として扱われていた事……
    から、「ウズラ」「山鶉」がメインで選ばれたと思うのです。

    そして、この日の「山鶉(perdreau)」は【ヨーロッパ山鶉(perdreau grise)】と呼ばれる、通称「ぺールドゥロ=グリ」という「灰色の脚」のモノ
    「山鶉」は、生後1年以内の「ペルドロー(ペールドゥロ)」と、それ以外の「ぺルドリ(ペールドゥリ)」と区別され、「ペルドロー」の方が高級とされます。
    また「グリ」という「灰色の脚」のものと、「ルージュ」という「赤い脚」のものに分けられて「グリ」の方が野性味を強く感じられるとして重用されるのです。
    今回は、その良いモノ+良い方と言う組み合わせの、まさに”ジビエの王道”のような素材が用意されたのでした。



    支配人の市川氏によって「山鶉一羽」が目の前でフランベされ、厨房で最後の仕上げをされて運ばれて来た「タジン」
    蓋を取った「タジン」の中には、クスクスが下に敷き詰められており、その上に先ほどの「山鶉」がこれでもか!と言う具合に積まれています。

    ペルドローから採ったコンソメをクスクスに浸してお召し上がりください」

    そう市川氏は言い残して厨房へと引き返していきました。

    黄金色のコンソメ」とこれまた「黄金色のクスクス」

    ふっくらムチムチとした弾力の程よく膨れたクスクスに、浸み込むコンソメだけでも美味しく頂けますが、それの合間に野趣味全開の手づかみで、いやお上品にナイフとフォークで、と山鶉の肉を適宜口に入れながら混然一体となったタジン鍋の世界を味わいます。
    そして、またクスクスにコンソメを注いで、独特の炭水化物の質感と浸みわたるコンソメの味を味わいます。

    これを何度か繰り返して、少々口の中が平板になってきたならば、添えてある「レモン」を絞って、酸味の加わった新しい世界を味わうのです。

    ジビエをこの様に大胆に使って食べるのは、なんとも豪快で贅沢な事でもありますが、捉えようによっては、この様に贅沢な食べ方で食べる事でジビエをしっかりと奥深い所まで味わうことが出来るとも言えるかもしれません。
    もちろん、ジビエは天地自然の恵みの貴重なもので、数量も限られてくるのですが、ちょっとした分量を、更にお洒落なフレンチスタイルという枠にしてしまうと、見映えばかりが意識されてしまって、そのもの本来の味を味わうと言う事が遠くなってしまう事になってしまいます。
    むしろ、貴重なジビエだからこそ大胆に食べる、丸ごと食べるという方が、【ジビエの一回性】と言うか、【一期一会】と言うかに即している気がするのです。

    「貴重な素材であるからこそ贅沢に料理する」(他方、「貴重な素材だからこそシンプルに料理する」もある)

    これも一つの料理の在り方だと思うのです。

    遙かマグレブで普段使いされているタジン鍋がフランスに渡って流行し、それが日本に入って来て、ヨーロッパで研鑽を積んだ料理人によって「年末」(年始)を祝う料理のメインとなる……

    誠に物事とは不思議なモノ……神羅万象に縁(よすが)があって、様々な事が結びついているのだとすると、「今日のこの日ここでタジン鍋で山鶉を食べた事」はどのように繋がっていくのか……今、分かる事はないけれども、そのことが何かに気が付く事があるかもしれない……それは美食の神様が年末に投げかけたこととして、心に留めておこうと思うのです。

日に新たなり
日日に新たなり
また日に新たなり「礼記(らいき):大学」

アヴァンデセール:紅玉リンゴのスープ パリソワール仕立て




    メインの山鶉とクスクスをこれ以上は無いというくらい堪能した後に運ばれて来たデセールは「紅玉リンゴのスープ パリソワール仕立て」
    【パリソワール】はワタクシの大好きなスープの一つで、このアタゴールに来ると頼む頻度が非常に高いスープの一つですが、今回は前菜としてのスープでは無く、デセールとしての甘いスープとしての登場です。

    パリソワールの一番の味わいどころは、下のベースになるスープと上に乗せているジュレ上のスープの双方の味の違いと質感の違いでしょう。
    液体になっているモノの美味しさと、ジュレ上になってある種固形に近い質感を持っているモノの美味しさが、直ぐに混じり合って平衡化するのではなく、時間差でそれぞれが舌の上で融けて行くのを味わう料理だとも言えます。

    「過行く2018年」と「来たる2019年」、後10時間もすると新しい年月を迎える時間の狭間で頂く2つのスープの重なり合いは、非常に象徴的な意味を持つスープだったと思うのです。

    スープの甘過ぎない甘さを堪能して、ご機嫌ではあるものの、この分量でデセールは終りかしらん??と思っていると、やおら市川氏の動きが慌ただしくなってきました。

    「お時間はございますよね?」

    「もちろん!」

    その返事を聞くと市川氏は急いで厨房の方へと足早に引き上げていきました。

グランデセール:



<<写真(左)駐仏大使 アレクサンドル=クラーキン (右)ルイ14世の公開食事風景>>


    再び市川氏が厨房から出て来た時には、市川氏の後ろに(曾村シェフ以外の)厨房のスタッフが付き従っていました。

    「何事!?」と思う間も無く

    「では、わたくしが今日はクレープシュゼットを」と市川氏

    何と今年最後のデセールは、メートルデトル市川氏自らの【クレープシュゼット】だったのです。

    支配人の市川氏は、普段のアタゴールではサービスを中心に担当されていますが、実は料理のご経験もあり、この様な場面ではサラッとゲリドンサービス(gueridon service:service a la russe)を華麗にこなす方なのです。

    フランス料理のサービスが、今の様な形になったのは、ナポレオンからウィーン会議に至る18世紀後半から19世紀にかけての事、フランス料理の輸入国でもあったロシアの駐仏大使であるアレクサンドル=クラーキン(Alexandr Borisovich Kuakine)によって考案され、徐々にフランスに逆輸入されるような形になります。

    現在のフランス料理店で行われている、一皿食べたら下げ、一皿食べたら下げ、というのはこのクラーキン大使が発明(励行)したもので、”温かいモノは温かく、冷たいモノは冷たく”という今では当たり前の料理に対する考え方も彼の考えによるものでした。

    なぜなら、クラーキン大使以前のサービス(フランス式サービス)は、一つのテーブルに所狭しと料理を並べ立て、それこそ立錐の余地がないくらいに並べるのが最上のものとされていました。
    これは、ルイ14世に代表される食事を権威付けの一つとする観点から、皆の観ている前で王が食事をするというイベントが行われ、その権威の為に、ありとあらゆる料理が並んだという事に起因するもので、これを踏襲したスタイルで食事をすると、温かいモノでも冷たいモノでも、とにかく並んでいるうちに適温からは外れてしまって、見かけは素晴らしいが味はサッパリという事だったらしく、これに辟易したクラーキンが自分なりの考えである”温かいモノは温かく、冷たいモノは冷たく”を具体化させたのが、世に言う【ロシア式サービス(service a la russe)】と名付けられて今に至る訳です。

    今日のクレープや、肉の切り分け、サラダの仕上げ……等々、幾つもの観ている前でのサービスはありますが、それもこのクラーキンの考えを敷衍したものゆえ、【a la russe(ア・ラ・リュッス)】となりますが、そこはプライドの高いフランス人のこと、このサービスをするワゴンである【gueridon:ゲリドン】を使うという意味でゲリドンサービスなる名前の方が浸透していたりもします。





    温かいモノを温かくというゲリドンサービスの真骨頂ともいえる【クレープシュゼット】

    市川氏の手さばきは慣れたもので、スルスルスルスル淀み無く進んで行きます。
    古の話に「包丁(ほうてい)」という名の牛を捌く名人がいて、王が観ている前で牛をあっと言う間に捌く話がありますが(「荘子:魏恵王」)、その話もかくやといわんばかりの市川氏の手捌きであったのです。

    【鬼才 曾村譲司】の許に「市川悟」あり……そんな素晴らしい人物模様を見た2018年最後の昼下がりでもありました。

    他の厨房スタッフの居並ぶ中でいとも簡単に【クレープシュゼット】をモノした市川氏は、何時もと変わらぬ体で、その後の仕上げをするために厨房へとクレープの入った銅鍋を運んで行きました。

    改めて、市川氏が登場して、デセールの「クレープシュゼット 金柑のソース」でと。
    実は、このクレープ……ただのクレープではありませんでした。
    クレープはクレープでも「サラザン」すなわち「蕎麦粉で作ったクレープ」であったのです。
    12月31日の大晦日を締めくくるデセールは「蕎麦」……まさに「年越しの蕎麦」をデセールにして今年最後の食べ納めの締めくくりとしたのでした。

    先程、クレープのフランベをする際にオレンジと一緒に鍋に入っていたのは「金柑」
    金柑は、見た目の可愛らしさや山吹色の色合いが「金」を連想させることもあって、縁起が良いモノとしてお正月料理に使われるものでもあります。
    また、旬が1月~3月にかかることもあり、まさにお正月を祝う一品でもあります。
    そして、「金柑」は「金冠」に通じて縁起が良いという件がありますが、よくよく考えて見ると「クレープ」の上に「金の冠」を載せると………「クレープの王様」……ならぬ「クレープ・ド・ロワ」……ちょっと変えると「ガレット・デ・ロワ」……

    そう、年明け1月6日の公現節の日に食べるのが「ガレット・デ・ロワ」という有名なお菓子ですが、それと掛けた「クレープ・ド・ロワ」
    何とも捻りの効いたデセールではありませんか!!

    今日、出して頂いた数々の料理はフランス料理ですが、同時に「行く年」「来る年」の要素を合わせ持った秀逸なもので、相当に練られた着想を感じます。
    そして、その奥深くに”フランス料理をして「和の心」を表す”という一つの主題が貫かれていたのを感じ取った時に、曾村譲司と言う料理人の凄味とその後ろに広がる底知れぬ宇宙に驚愕をし、来年もこの人の美味しいモノをもっと食べるぞという想いを新たにするのでした。


「もっと光を」はドイツのゲーテ
「もっと美食を」は”食いしん坊のルイ”

プティフールと紅茶 (petits four et the)




    思えば、この2018年は色々と食べた一年でもありました。
    「トナカイ」「蟹」「ホワイトアスパラガス」「仔牛」「蛙」………などの素晴らしい素材の数々……
    そして、歴史にちなんだこれまた筆舌に尽くし難いメニューの数々……
    どれもこれも他で食べる事も見ることも出来ない曾村氏渾身の料理の数々を堪能した1年であったのです。

    先ほど、市川氏のゲリドンサービスを見ていた厨房の若手スタッフの方々は、今日が千秋楽との事で、片付けが終わった後に曾村氏直々の「お菓子講座」が開かれるようで、何を見せてもらえるのだろうと若者らしい初々しさで話してくれていたのも印象的でした。

    ワタクシは、ただ食べる事しか能が無いしょうもない食いしん坊ですから料理の事となれば心ときめくのはモチロンなのですが、これから未来ある若者までもワクワクさせる【A ta guele】は、本当に素晴らしい「夢空間」だという事を、この最後のプチフールのトリュフを食べながら改めて再認識したのでした。

    月間専門料理の2019年1月号には、オープンして10年以上経ったお店の特集が始まり、【A ta guele】はその連載第一号としてトップバッターを飾る事になったのでした。
    折角の記念なので、この日、アタゴールに行く前に日本橋の丸善で買い求め、帰り際に片付け等でお忙しい曾村氏に無理を言ってサインを頂戴しました。

    2018年、シェフの曾村氏、支配人の市川氏、他アタゴールのスタッフの方々には本当にお世話になりました。
    ただただ美食に耽溺したい自分にとって、2018年は素晴らしい年であったと思わずにはいられません。
    願わくば、来年も素晴らしい美食を味わいたいと思って感謝方々筆をおろそうと思います。


<<写真(左)専門料理2019年1月号(中央)2018年12月31日(右)オーナーシェフの曾村譲司氏、支配人の市川悟氏>>